Tower Semiconductorは、イスラエルに本社を置く半導体ファウンドリで、1993年に米ナショナルセミコンダクターのイスラエル工場を取得して設立された。日本との関係も深く、2014年にはパナソニックと合弁でTPSCo(現タワー パートナーズ セミコンダクター)を設立し、パナソニックが長年運営してきた魚津、砺波、新井の半導体工場を生産基盤に取り込んだ。
現在も日本国内で200mm、300mmウェハーの製造能力を持ち、アナログ半導体などに加えてCMOSイメージセンサー(CIS)の受託生産にも対応している。つまり、海外のファウンドリでありながら、日本に旧パナソニック系の半導体製造基盤を持ち、カメラ用を含むCMOSイメージセンサーを日本国内で生産できる企業なのである。
このようにTowerはCMOSイメージセンサーのファウンドリ事業を展開しており、「Professional Photography」を明確な対象市場として掲げている。しかも、DSLRやミラーレスカメラ向けに、大型・高解像度センサー、BSI、積層、PDAF、さらに1回の露光領域を超える大型センサーを製造するためのstitching技術まで用意している。フルサイズや中判クラスの大型センサーを念頭に置いた製造技術をすでに持っているのである。
加えてTowerは日本国内にも300mmウェハーの生産能力を持つ。キヤノンからすれば、これは「重要な半導体技術を海外企業に丸投げする」という選択とは少し意味が違う。センサーのアーキテクチャや画素、読み出しなど競争力の源泉となる設計能力は自社に残しながら、巨額の固定費がかかる製造だけを専門企業に任せることができる。ニコンがソニーにCMOSの生産を委託しているように「キヤノンが開発しタワーが生産する」というモデルもありうるのではないか。
「何を自社で持つか」を
問い直す時代に
もちろん、筆者はキヤノンがTowerへの製造委託を検討しているという情報を持っているわけではない。ここまでの議論は公開情報から考えた仮説である。また、現在もキヤノンは世界最大のカメラメーカーであり、CMOS、DIGIC、レンズまで自社で開発できることがEOSの競争力を生み出していることも間違いない。
しかし、企業にとって重要なのは「技術を持っているから自社で作り続ける」ことではない。競争優位の源泉となる技術を自社に残しながら、どこまでを自社で行い、どこからを外部企業の規模の経済に委ねるのか。その境界線を不断に見直すことこそ経営である。
ソニーによるタムロンへの買収提案が実を結び、レンズを含めたαの競争力がさらに高まれば、キヤノンの完成品市場における規模の優位が縮小する可能性がある。そうであれば、キヤノンが直面する「二重の規模の経済」の問題は、これまで以上に大きくなる。キヤノンがCMOSイメージセンサーの自社開発をやめる日は、簡単には来ないだろう。それはEOSを支えるコア技術だからである。しかし、自社開発を続けることと、自社工場で生産し続けることは同義ではない。
ソニーがタムロンによってカメラシステムの弱点を補い、イメージセンサーではTSMCとの新たな分業に踏み出そうとしている今、キヤノンにもまた、「自社が本当に握り続けるべきものは何なのか」を問い直す時期がやってくるかもしれない。
その答えの一つが、「キヤノンが設計し、Towerが日本で作る」という形であったとしても、決して不思議ではない。
(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)







