精神科医の倫理「ゴールドウォーター・ルール」

今回、最もお伝えしたかった重要な問題はここからです。

それは、「診察もしていない他人の病名を勝手に推測し、公に言いふらすこと」の危険性です。精神科医には、これを禁ずる「ゴールドウォーター・ルール」という統一見解があります。

これは過去にアメリカの選挙において、精神科医を利用して対立候補に「あの人は◯◯病だ」とネガティブキャンペーンを行った歴史があり、「精神科医はそのようなことをしてはいけない」と定められたものです。

そもそも、診察していない他人に対して勝手に診断名をつけるのは言語道断です。仮に診察していたとしても、守秘義務があるため当然言ってはいけません。

SNS時代における情報発信とスティグマへの配慮

近年、SNSやYouTubeの普及により、誰もが気軽に発信できるようになった結果、このあたりの倫理観が非常に曖昧になってきています。

「◯◯さんは◯◯病だ」といったタイトルは再生数を稼ぎやすいため、安易に発信する人が増えていますが、これはシビアに考えるべき問題です。

精神科医はただ病気を治療するだけでなく、精神疾患に対するスティグマ(偏見)と戦ってきた歴史があります。過去には、精神疾患を持つ方々が不当な扱いを受け、レッテルを貼られて辛い思いをしてきた時代がありました。

だからこそ、人を「◯◯病だ」と決めつける行為や、SNS上で軽く発言したつもりでも拡散されてしまう現状に対しては、もっと慎重になるべきだと私は考えます。

患者情報の取り扱いに対する慎重さ

さらに言えば、医療従事者の中で、名前を出さなければ検査データやカルテ、X線・CT画像などを公開してもよいと考えている人がたまにいますが、それも大きな問題です。

たとえ匿名であったとしても、公開された本人が見れば自分だとわかりますし、決してよい気分はしません。許可なく公開するのは問題外です。

私たちが学会や論文で症例を発表する際も、個人が特定されないよう細心の注意を払い、必ず患者様から承諾書をいただいています。

SNSなどで「こんなケースがあった」と気軽に発信する行為も控えるべきであり、発信するのであれば全く別のフィクションとして作り直すくらいの気遣いが必要だと考えています。