「自分がこの会社を回しているんだ」という、役職やカリスマ性への依存が、定年退職した翌日から始まる悲惨なアイデンティティ崩壊の引き金になります。人は組織での立場や優越感を「自分の実力」と勘違いし、そこにしがみつこうとする弱い行動原理を持っています。この本質を自覚し、自分の存在を仕組みに落とし込めないリーダーは、最後は寂しい末路を辿ります。この連載では、書籍『リーダーの仮面』をベースに、全ビジネスパーソンに必須の「リーダーシップ」のあり方を指南する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

定年後、「老け込んでいく人」が現役時代に依存していたこととは?Photo: Adobe Stock

「あなたがいないと困る」の危険性

 50代の現役バリバリのリーダーにとって、部下や周囲から、

「部長、このプロジェクトはあなたがいなければ絶対に失敗します」
「あなただからこそ、みんなついていっているんです」

 と頼りにされ、ちやほやされる状態は、自尊心を大いに満足させるものです。

 自分は「替えの利かない特別な存在」であり、この会社を支えているという万能感。
 しかし、この瞬間、リーダーは恐ろしい麻薬を吸い込んでいます。

 役職や特定の立場が与えてくれる優越感を自分の「実力」だと錯覚し、自分を替えの利かない存在にしておこうとするのはエゴです

 組織の成長を止め、同時に自分自身の未来への脱皮の機会を奪う罠なのです。

「自分がいなくなると困る」という錯覚

とにかく仕組み化』で私は、この存在意義の罠について次のように警告しています。

「自分が辞めたら会社は困るだろう」
そういうポジションを得ることは、単純に気持ちいいことです。
この言葉は麻薬です。
その人の存在意義になってしまい、しがみつこうとします。
――『とにかく仕組み化』より

 会社は成果を出すために「機能」を組み合わせて動くピラミッド組織です。

 そこにいる人間は、社長であっても、本質的には「代替可能(替えの利く)な歯車」でなければなりません。

 もし一人の人間が抜けただけで崩壊する組織があるなら、それは仕組み化を怠った管理職の怠慢です

 この麻薬にしがみつき、いつまでも「自分中心の属人化された世界」を維持しようとしたリーダーは、定年退職した瞬間にすべての居場所と優越感を失い、急速に老け込んでいく末路を迎えます。

「プロの歯車」となれ

 本当に何歳になっても社会から必要とされ、現役として若々しくあり続ける人は、自分の持つすべての知識やノウハウを「仕組み(マニュアル)」として組織に提供し、いつでも自分が退場できる準備を整えています。

 自分の存在を限りなくゼロに近づけ、後進にバトンを渡せる人こそが、本当の意味での「かけがえのない重要な歯車」となるのです

 リーダーは、自分を特別に見せたい承認欲求と戦うために、仮面をかぶらなければいけません。

 ちやほやされる立場に依存するのをやめ、冷徹に「機能としての歯車」になり切る。

 そのプロフェッショナルとしての覚悟こそが、部下を自立した大人へと育て、自分自身の人生を本当の自由へと導くのです。