世界初「ヘビ型ロボット」を生み出したコンセプト

 わたしが最初に開発した医用ロボットは、ヒト型でもネコ型でもなく、なんとヘビ型のロボットでした。どんなロボットだったのか、簡単に説明しましょう。

 みなさんにご経験があるかどうかわかりませんが、大腸のポリープなどを調べるときには、お尻から内視鏡を挿入することになります。ところが、大腸には「S字結腸」という極端なカーブを描いている部位があります。そのため、通常の内視鏡を挿入しようとすると、内視鏡がS字結腸部分の壁を圧迫してしまい、うまく挿入できなかったり、大きな痛みを伴ったりしていました。

 そこでわたしが指導教員だった広瀬茂男先生と考案したのが、ヘビのようにくねくねと動く「ロボット(能動)内視鏡」です。内視鏡がS字結腸のカーブに沿って動いてくれれば、スムーズに通過して、患者さんに痛みを与えることもない。病気の早期発見にもつながるし、人の命を救うことにつながる。そんな思いからスタートしたロボットです。

 ロボット内視鏡の直径は、わずか8ミリ。ヘビのようにくねくねとした動きを生み出す動力はモーターではなく、形状記憶合金でした。内視鏡の中に形状記憶合金でできたコイルを何本も組み込み、それぞれに加える熱をコントロールすることによって、右に左にと自在に伸縮させる仕組みです。
 この大腸に内視鏡を通そうとするとき、いちばんの障害になるのがS字結腸の急カーブです。このとき、多くの人は「どうすればS字結腸を真っ直ぐに伸ばすことができるか?」と考えます。S字結腸が直線状になってくれれば、なんの苦労もなく内視鏡を挿入できるからです。

 そこで考案されたのが、次のような方法です。
1. 内視鏡とは別にスライディングチューブと呼ばれる筒を挿入し、
2. S字結腸を直線状にしてから、
3. 内視鏡を挿入する。
 たしかに、こうすることでスムーズな挿入が可能になります。しかし、S字結腸を無理やり伸ばすのですから大きな苦痛を伴うのです。

 こうした状況に対して、広瀬先生とわたしのコンセプトは明確でした。

 とにかく「痛くない内視鏡検査」がしたい。
 病院での治療や検査から、可能な限り苦痛を取り除きたい。


 そのコンセプトの下、浮かんできたのが「S字結腸を直線状にするのではなく、内視鏡そのものを曲げられるようにすればいい」「内視鏡をヘビのように動くロボットにしてしまえばいい」というアイデアでした。

 さらに、ここから「じゃあ、具体的にどうすればヘビのようにくねくねと動くロボットができるのか?」と具体的な開発の手順を考えていきました。つまり、

(1)コンセプト……痛くない内視鏡検査を実現する
(2)アイデア………内視鏡をヘビのように動くロボットにすればいい
(3)開発……………素材は?動力は?安全性は?

 と考えていったわけですね。

決して「くねくね動くロボットができたから、なにか使い道はないかな?」と内視鏡に目を付けたわけではありません。そもそも、「痛くない内視鏡検査」というコンセプトがなかったら、ヘビ型ロボットをつくろうなど考えもしなかったはずです。

 本物のアイデアとは、コンセプトのあとからついてくるのだと思ってください。