「新しいものを生み出すにはコンセプトを作ろう」と言われますが、では、あなたはどうやって自分のコンセプトを見つけていきますか?「ジョブズもディズニーも作り出したのはジャンルだった」という言葉の意味とは? ロボット内視鏡を生み出した東大教授の特別授業、第4回!

「どうしたいのか?」「どうなりたいのか?」から始める

 わたしは博士をとってすぐ、「世界でひとりだけしかやっていない研究をしている」という理由で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンターで働くことになりました。

 そこで覚えた印象的な言葉に、「グランド・チャレンジ」というものがあります。グランドとは、グランドピアノとかグランドファーザーなんかのグランド。直訳するなら「壮大な挑戦」となるわけですが、これだとちょっとニュアンスが違うんですね。単なる挑戦ではなく「抜本的な改革・イノベーションとしての挑戦」に近い意味が、この言葉には込められています。

 どういう場面で使うかというと、たとえばわたしが学会などで「こういう発想でロボットをつくって、こんな世の中を実現したい」という話をすると、アメリカ人の研究者は一様に「これは素晴らしいグランド・チャレンジだな!」と評価してくれる。

 一方、日本で同じ話をすると「まあ、おもしろい『お話』でしたね」となってしまう。この違い、おわかりになりますか?つまり、日本人の研究者は「夢物語はいいから、実物をつくって結果を出せ」という態度なのに対して、アメリカ人は発想そのものに評価を与えるのです。

 結果的に、この態度の違いが日本から新しい「ジャンル」を生みにくくしているのだと思います。

「グラント・チャンレンジ」の見つけ方

わたしはいつも、学生たちに「コンセプトから考えること」の重要性を説いています。いきなりモノをつくろうとするのではなく、まずはコンセプトレベルから考える。技術を新しくするのではなく、コンセプトを刷新する。

 たとえば、市場に出回っているパソコン。そのスペックは日々改善され、向上していっています。5年前のパソコンと最新型のパソコンでは、ディスク容量から処理速度まで、雲泥の差があるでしょう。しかし、違いはせいぜいスペックのレベルなのです。技術的には日々新しくなりながら、じつはなにひとつとして新しくなっていない。改善に改善を重ねた結果の「最新型」にすぎません。

 一方、iPadに代表されるタブレット型コンピュータは、ノートパソコンの技術をコンセプトレベルで刷新したものになります。使われている技術としてはノートパソコンの延長でありながら、コンセプトがまったく違う。まさにグランド・チャレンジです。

 そしてここから「電子書籍の時代がやってくる」とか「デジタル教科書に使えそうだ」、「カーナビとして使ってみよう」など、ノートパソコンでは思いつかなかったようなアイデアも出てきます。

 話を整理しましょう。

「どうすればもっといいノートパソコンができるか?」
「ノートパソコンに必要な新機能はなにか?」


 ここから出てくるアイデアは、改善や改良の域を出ません。そうではなく、

「自分はどんな世の中を実現したいのか?」
「いま世の中には、なにが不足しているのか?」


 というように、将来のあるべき姿から考えていく。それがグランド・チャレンジであり、コンセプトの発想になります。新しいコンセプトさえ見えてしまえば、それを実現するためのアイデアも出てきますし、自分が取り組むべき課題もわかるはずです。このあたり、コンセプトから逆算する方法について、私が発明したヘビ型のロボット内視鏡を例に詳しく説明しましょう。