多くの日本企業がDXを経営戦略の常識と捉え、巨額を投じながら期待した成果を得られていない。その根本原因は、デジタル技術の欠如ではなく、組織の中に生じた深刻な「分断」にある。
数多くの新規事業開発、そして数千億円規模のDX導入に立ち会ってきたドリームインキュベータ(DI)が提唱するのは、IT部門や外部ベンダー任せにしない「事業主導型DX」である。
この度、同社執行役員である島崎崇氏が書籍『いつまでその“DX”を続けるのか』を上梓、実際の現場で起きた生々しい変革事例を基に、抽象的な戦略論ではない実行ノウハウを公開した。
本連載では、特別に同書からその一部を公開する。第1回は、DXを妨げる「分断」とは何か。

なぜDXは進まないのか──組織を止める「分断」の正体〈PR〉

誰も悪くない。それでも組織は止まる

なぜ、DXを何年も取り組んでいるのに成果が出ないのか。

予算やIT人材の不足だけが原因ではない。多くの企業で共通する問題は、経営・事業・ITの間で、目的・判断・実行がつながっていないことにある。

私たちは、この状態を「分断」と呼んでいる。

経営は「全社でDXを進める」と号令をかける。
事業部門は「まずは今期の売上目標を達成しなければならない」と考える。
IT部門は「安全性と安定稼働を崩すわけにはいかない」と慎重になる。

誰も間違っていない。それでも、DXは進まない。

経営は全社の競争力に、事業部門は顧客と売上に、IT部門は安定稼働やセキュリティに責任を負っている。同じ会社に所属していても、日々の判断基準は大きく異なるからだ。

多くの日本企業で見られる部門内の強い結束は、平時には大きな競争力になる。メンバー同士が助け合い、現場の知見を共有し、素早く業務を回せるからである。

しかし、部門を越えた変革が必要になると、その結束が人材の囲い込みや、他部門への非協力として表れることがある。会社全体の成果よりも、自部門の目標や人員の維持が優先されてしまう。

たとえば、経理部門が月次決算を正確に締めるため、事業部門に期限内の請求書提出を求めたとする。
一方の事業部門は、顧客対応や売上獲得を優先し、提出を後回しにする。
支払いが翌月にずれれば、事業部門は「経理の処理が遅い」と不満を持ち、経理部門は「期限を守らない事業部門に原因がある」と考える。

どちらも怠慢ではない。それぞれが自らの役割に忠実に動いた結果、優先順位がかみ合わなくなっている。

分断とは、仲が悪い状態ではない。それぞれの「正しさ」が接続されていない状態だ。

あなたの会社は、どこで分断しているのか

分断は、大きく2種類ある(図1)。

一つは、経営の意図が現場まで伝わらない「縦の分断」だ。

経営は変革を求めている。しかし、現場には目的が伝わらなければ、DXは単なる追加業務として受け取られる。部門長の考えと担当者の行動がずれるケースも、縦の分断にあたる。

もう一つは、事業部門とIT部門など、組織同士の判断基準がかみ合わない「横の分断」である。

たとえば、IT部門がシステム導入を進めても、事業部門が「現場では使えない」と反発する。各部門は自らの役割を果たしているにもかかわらず、会社全体の成果につながらない。

縦と横の分断は、部門間だけでなく、同じ部門内のチームや担当者の間にも生まれる。

分断があっても、ある程度は成長を続ける企業もある。しかし、製造や物流のように、複数部門の連携そのものが価値を生む事業では、分断が業績に直結する。

そして厄介なのは、各部門がそれぞれDXで成果を上げても、この分断が解消されるとは限らないことだ。