多くの日本企業がDXを経営戦略の常識と捉え、巨額を投じながら期待した成果を得られていない。その根本原因は、デジタル技術の欠如ではなく、組織の中に生じた深刻な「分断」にある。
数多くの新規事業開発、そして数千億円規模のDX導入に立ち会ってきたドリームインキュベータが提唱するのは、IT部門や外部ベンダー任せにしない「事業主導型DX」である。
この度、同社執行役員である島崎崇氏が書籍『いつまでその“DX”を続けるのか』を上梓、実際の現場で起きた生々しい変革事例を基に、抽象的な戦略論ではない実行ノウハウを公開した。
本連載では、特別に同書からその一部を公開する。第2回は、「分断」を解消し、企業変革を前に進める「のりしろ」の存在について。

分断を解消する「のりしろ」〈PR〉

組織の分断を解く鍵は、「間」にある

経営には戦略がある。
事業部門には現場の知見がある。
IT部門には技術とデータがある。

それぞれが高い専門性を持っている。それでも、なぜ企業変革やDXが進まないのか。

問題は、個々の能力ではない。それらをつなぐ機能が欠けていることにある。

この構造は、通信やコンピュータの世界で使われる「ネットワークトポロジー」として考えると分かりやすい。ネットワークは、要素や機能の集まりである「ノード」と、それらを結ぶ「リンク」で構成される(図1左)。

どれほど優れたノードがあっても、リンクがなければ全体として機能しない。

企業も同じだ。

経営、事業、ITがそれぞれ優れていても、つながっていなければ、会社全体の価値には変わらない。
私たちは、このノード同士をつなぐリンクを「のりしろ」と呼んでいる。

価値は「ノード」ではなく、つながりから生まれる

企業が成長するほど、経営、事業、ITなどの役割は明確になり、人材も特定の部門や専門領域の中でキャリアを積むようになる。

専門性を高めること自体は重要だ。
問題は、その専門性が自部門の中だけで完結してしまうことである。

本当に問われるのは、「何の専門家か」だけではない。その専門性を他部門とどうつなぎ、どのような事業価値に変えるのかだ。

ところが、部門と部門の間をつなぐ役割は、部署名や肩書、職務経歴書には表れにくい。
見えにくいが、企業変革に欠かせない。その役割こそが「のりしろ」である。

変革の主役は、「道具の使い手」である

では、誰が「のりしろ」の中心を担うべきなのか。

原則は明確だ。道具を実際に使い、業務の成果に責任を負う「使い手」が主導すべきである。

事業成長を目的とする改革なら、使い手は事業部門である。
人事や経理などの業務を変えるのであれば、それを担うコーポレート部門が使い手である。

重要なのは、「事業か、ITか」という二択ではない。改革する業務を最も理解し、その成果に責任を負う人が、課題設定の中心になることである。

プロ野球選手が、体格や打撃スタイルにかかわらず、球団から一律に渡されたバットだけを使っているとしたら、どうだろう。

成果に責任を負う選手ほど、職人と相談し、試行錯誤しながら、自分に合う道具を選ぶはずだ。

ところがビジネスの世界では、現場を理解する事業部門が、IT部門や外部ベンダーの用意したシステムをそのまま使い、「使いにくい」「成果が出ない」と不満を持つことが少なくない。

もちろん、業務システムは個人のバットとは違う。全社標準やセキュリティ、データ連携も考えなければならない。それでも、使い手を抜きにして道具の仕様を決めてよい理由にはならない。

では、「使い手が主導する」とは、事業部門がすべてを決めることなのだろうか。