経営・事業・ITをつなぐ人材が、変革を前に進める

大規模なシステム改革では、まず現場の業務を棚卸しし、「何を変え、どのような成果を実現したいのか」を定めなければならない。

ここで重要な役割を担うのが経営である。経営は、変革によってどのような事業や会社を目指すのかを示し、何を優先するのかを決める。そして、部門を越えて人や予算を動かせる環境をつくる。

その上で、現場を熟知する事業部門が、業務を棚卸しし、「何を変え、どのような成果を実現するのか」を具体化する。

一方で、事業部門だけに要件定義書の作成やシステム設計を任せるのも現実的ではない。
業務の課題を、技術的な要件へ変換する知識が必要だからだ。

経営が「なぜ変えるのか」「何を優先するのか」を示す。
事業部門が「何を変えるか」を定める。
IT部門が「どう実現するか」を設計する。

そして、その三者をつなぐ人材が、経営の意図を現場へ落とし込み、現場の課題を経営判断につなげ、業務の言葉をITの言葉へ翻訳する。
この接続があって初めて、経営の構想が、現場で使われ、成果につながる仕組みへと変わっていく。

そこで重要になるのが、事業部門の近くに、業務とITの両方を理解する人材を置くことだ。
その人材が、現場の課題や要望をシステム要件へと翻訳し、全社ITや外部ベンダーとの間をつなぐ。

各事業部門の近くにIT人材を配置することは、一見すると無駄に見えるかもしれない。
しかし、経営が求める変革、事業部門が求めるスピード、そしてIT部門が担うセキュリティやデータ連携などの全社ガバナンスの3つを両立させるには、接続役が欠かせない。

事業部門のIT人材は、新たなノードを増やす存在ではないのである。

もちろん、すべてを事業部門ごとに自由に決めてよいわけではない。
セキュリティ、データ基盤、システム連携、共通アーキテクチャなど、全社で統一すべき領域はIT部門が主導する。一方、経営は全社としての変革の優先順位を定め、部門間で利害がぶつかったときに意思決定する役割を担う。

本当の意味での内製化とは、すべてを自社で開発することではない。
事業部門が自ら解くべき課題を定め、経営が示す方向性と接続しながら、IT部門や外部ベンダーと議論し、必要な仕組みを構想できる状態をつくることである。

ノードをなくすのではなく、接続を設計する

「のりしろ」とは、誰か一人が経営・事業・ITのすべてに精通することではない。
それぞれが専門性を持ったまま、相手の目的や制約を理解し、共通の意思決定へとつなげる人と仕組みである。

事業部門は、解くべき課題と実現したい成果を定める。
IT部門は、全社最適や安全性を担保しながら、それを実装可能な形にする。
経営は、変革の優先順位を明確にし、部門を越えて動ける環境をつくる。

分断を解消するために、ノードをなくす必要はない。

必要なのは、ノードとノードの間に、価値を生み出す接続を設計することである。
その接続こそが、企業変革を前に進める「のりしろ」なのだ。