事業主導とは、事業部門がすべてを決めることではない

私たちは、事業成長を目的とする改革において、使い手である事業部門が意思決定と実行の中心に立つ進め方を「事業主導型DX」と呼んでいる。

ただし、事業主導型DXとは、事業部門がすべてを決め、経営やIT部門を従わせることではない。

事業部門は、「何を変え、どのような成果を実現するのか」を定める。
IT部門は、それを安全かつ持続可能な仕組みとして実現する。
経営は、変革の優先順位を明確にし、部門を越えて人や予算を動かせる環境を整える。

つまり、事業主導型DXとは、事業部門が単独で進めるDXではない
経営・事業・ITが目的と判断基準を共有した上で、使い手である事業部門が意思決定の中心に立つ取り組みである。

“分断”した組織を、どうつなぎ直すか

大企業が、創業期のような一体組織に戻ることは現実的ではない。
目指すべきなのは、分業は維持しながら、思考や判断の軸を共有できている状態である。

組織としての役割は分かれていても、考えを共有し、互いの立場や制約を理解した上で、議論し意思決定できる状態だ(図2下)。

必要なのは、新しい横軸組織や会議体を増やすことではない。

経営と事業、事業とIT、ITと経営の間をつなぐ人材(=のりしろ)が必要となる。
さらに、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)レベルでの統率や、変革の目的、優先順位、KPI、意思決定のルールを、三者の共通言語にしなければならない。

事業部門が行うのは、経営から与えられた施策を実行することでも、IT部門から依頼された要件定義書を作成することでもない。

将来の事業像から逆算し、「どの業務を、何のために変えるのか」を定める取り組みである。

ただし、現場の課題を把握していることと、それを変革の構想へ落とし込めることは同じではない。だからこそ、経営やIT部門とつながり、課題を具体的な施策へと変換する「のりしろ」が必要になる。

「データがあれば変わる」という誤解

データを一か所に集めても、組織の見方まで一つになるわけではない。

多くの企業が、データレイクの構築やBIツールの導入に投資してきた。
経営・事業・ITが同じデータを見られる環境を整えることは重要である。
しかし、データを共有しただけでは、組織をまたぐ「のりしろ」は生まれない。

たとえば、経営・事業・ITが部門ごとにデータを持ち寄り、会議の場で共有したとする。
一見すると情報は集約され、議論の前提は揃っているように見える。

しかし、経営はコスト、事業部門は売上、IT部門はシステム制約と、それぞれ異なる観点でデータを見ている。同じ情報でも、目的と判断基準が違えば、解釈は一致しない。

これは、人とデータが同じ場所に集まっただけの単なる「集合」であり、共通の判断へ進む「融合」ではない。

問題の本質は、データ不足ではなく、データをつなぎ、意味付けし、意思決定に変換する「のりしろ」が存在しないことである。

共通の判断基準がないままデータだけが増えると、各部門は自らの主張に合う指標を選び、それぞれの正しさを補強できる。

だから、DXの出発点は、データ収集ではない。
解くべき事業課題と仮説を定めることである。

課題と仮説があって初めて、必要なデータと、その使い方が決まり、
経営・事業・ITとの間に「のりしろ」が機能して初めて、データは記録から、価値を生み出す武器へと変わる。

逆に、目的が曖昧なままデータだけを整備しても、それは「使われない資産」が増えるだけに終わってしまう。