平井氏は、経営方針説明会などで多くの数字を使って語っても、決して「数字が多くてわかりにくい」という印象を与えることはありません。なぜなら、数字を単体で提示するのではなく、必ず「背景」や「文脈」とセットで語るからです。

「3000億円」の数字に
込められたソニーの決意

 最も象徴的な例として、「2016年度の経営方針説明会」を見てみましょう。

 2016年4月に起きた熊本地震によって、ソニーは生産拠点が大きな被害に遭うという、極めて厳しい事態に直面しました。実際、平井氏のスピーチの中では、「震源から12キロの距離にソニーのデジタルカメラやディスプレイデバイスの基幹工場があり、地震により大きな影響を受け生産活動に支障が生じた」と触れられています。

 工場自体もダメージを受け、そこに従事する関係者らも被災したわけです。どれほど困難な状況か、想像に難くありません。

 しかし、平井氏はこの後、復旧の見通しとともに、次のように述べました。

「2015年度と同水準の3000億円の営業利益を達成すべく、ソニーグループ一丸となって取り組んでいます」(*注2)

 注目すべきは、この数字の出し方です。

 いきなり「今年の見通しは3000億円です」と言うのではなく、

・どんな困難があったのか

・どんな影響を受けているのか

 という「背景」や「文脈」を伝えた上で、数字を示しました。その結果、3000億円という数字は、単なる業績見通しを超え、過酷な状況を乗り越えて「組織として守り抜く、並々ならぬ決意」として、聞き手に伝わったのです。

 ここに、平井氏ならではの、数字をストーリー化する技術があります。

 ソニー歴代トップのスピーチライターを務めたさ佐々木繁範氏は、体験談を語る際の効果的な構造として【事件→葛藤→解決→教訓】というフレームを紹介しています(*注3)。

*注2 ソニー株式会社「経営方針説明会」(2016年6月29日公式発表資料より)

*注3『ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則』(佐々木繁範、日経BP社、2017年)