田中森一氏 Photo:SANKEI
「特捜のエース」として名をはせた検察官が、なぜ「闇社会の守護神」と呼ばれる弁護士になり、最後には刑務所に入ることになったのか――。貧しい家庭から司法試験に一発合格し、巨額の財を築いた田中森一氏。栄光と転落、そしてがんとの闘いを経験したその人生を振り返り、医師の鎌田實氏は「もう少しうまく生きられたのではないか」と語る。人生の節目で立ち止まり、自分にとって本当に大切なものを見極める「身辺整理」の意味とは。※本稿は、医師の鎌田 實『身辺整理』(明日香出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
「特捜のエース」から一転
刑務所に入った男の人生
身辺整理とは、モノ、財産、人間関係などを整理することです。
人生の節目ごとに、本当に必要なものを見極め、不必要なものを整理することは、とても大事なことです。その大切さを思うとき、ある男のことを思い出します。
「鎌田先生の『がんばらない』を刑務所の中で3回読みました」
そう語ったのは、“悪徳弁護士”と言われてしまった田中森一さん。
詐欺罪で懲役3年の刑を終えて、その半年後の2013年に、僕は彼と対談しました。
彼は、服役中に胃がんが見つかり、医療刑務所で手術を受け、67kgあった体重が一時41kgにまで減ってしまいました。
僕の本の「笑うと免疫力が上がる」という一文を読むと、さっそく実践したと言います。
「オレはついている。オレの将来は明るい」
そう独り言を言いながら、「わっはっは」と笑ったそうです。
すると、すかさず飛んできた看守の怒号。「ひとりで笑うな!」
このエピソードに、僕は大笑い。田中さんも人懐っこい顔で笑い出しました。この人懐っこさを武器に、彼は起伏の激しい人生を歩んできたのだと感じました。
彼は長崎県平戸生まれ。貧しく、漁師の父を手伝いながら定時制高校に通い、いろいろな人の応援を得て岡山大学へ進学しました。司法試験に一発で合格、検察官となります。大阪地検や東京地検で数々の汚職事件を担当し、「特捜のエース」と言われるようになります。
検事から弁護士に転身し
「闇の守護神」へ……
しかし、ある事件で権力側から捜査のストップがかかります。それに嫌気がさして検事をやめ、弁護士に転身。暴力団の幹部や、総会屋などの顧問弁護士を始めたのです。
「特捜のエース」が、「闇社会の守護神」と呼ばれるようになったのです。
顧客に特捜部の手が及びそうになると、かつての仲間を敵に回して、立件を阻止しました。特捜部も面白くなかったことでしょう。
彼の派手な振る舞いも、元同僚の気持ちを逆なでしたように思います。40億円もの蓄財をし、最盛期にはヘリコプターを所有して、日本中を飛び回っていたのです。実際、田中さんも「つまらないことで、はめられた」と振り返っています。
なぜ、こんなことになってしまったのか……。
対談から1年半後、がんが再発・転移し、腹膜播種を起こして、彼はこの世を去ってしまいました。
たしかに人生はままならないものです。でも、もう少しうまく生きられたのではないかと、あの人懐っこい笑顔を思い出します。







