現金の状態もさまざまで、きれいに束ねられた新札ばかりとは限りません。段ボールにくしゃくしゃの一万円札が無造作に入れられていたり、今ではほとんど流通していない旧紙幣が混じっていたりすることもあります。長年かけて少しずつ貯め込んでいたことがうかがえます。
一方で、常に巧妙に隠されているわけでもありません。お住まいが著しく散らかった状態で、いわゆるゴミ屋敷のようになっているケースに立ち会ったこともあります。足の踏み場もないような部屋の中に現金が紛れている可能性もあるため、こうした現場では複数人、必ず女性の調査官も含めたチームで訪問するようにしていました。
「特定の証拠」がなくても
相続税の不正申告はバレる
千葉文男(ちば・ふみお)/税理士。2019年8月22日税理士登録。国税OBとして資産税分野に32年の実務経験を持ち、相続税・贈与税・譲渡所得などを専門とする。現在は生前対策から二次相続まで見据えた総合的な相続対策を得意とし、弁護士・司法書士など各専門家と連携したワンストップ対応にも強みを持つ。
――法人税や消費税の調査と異なり、相続税の調査では領収書のような明確な証拠書類が乏しいことが多いと聞きますが、だからこそ調査官は生活の中にある意外なものに目を向けたり、会話を重視したりしているのですね。
法人税や消費税であれば、帳簿や請求書、領収書といった「動かぬ証拠」が存在します。しかし相続税の場合、亡くなった方はもう何も語れませんし、現金には伝票も明細もありません。証拠がない以上、調査官は「事実を語らせる」しかないのです。
だからこそ、カレンダーやノベルティー、メモ帳など一見どうでもいいようなものすべてを会話の糸口にしています。一つひとつは小さな手がかりでも、それらをつなぎ合わせていくと、最終的には「このご家庭には、まだ申告されていない財産がある」という一つのストーリーが浮かび上がってくる。
タンス預金にしても、隠された現金にしても、隠しているご本人は「これでバレないだろう」と思っています。ですが、お金は使えばどこかに痕跡が残りますし、使わなければ今度はその存在自体が不自然な形で残ります。
人が生活する限り、完全に消える資産というのはまずありません。大切なのは、「バレないかもしれない」ではなく、「見つかったらどうなるか」で判断することです。隠して後から指摘されれば加算税や延滞税がかかる場合もあるため、正直に申告するほうが、結果的にご遺族の手元に残る財産も多くなります。
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