第三が、データと新興領域だ。新法第7条は国防動員に関係するデータの収集、利用、安全保障を定め、第8条は先端技術の応用、新興領域における国防動員能力の発展を規定した。これは旧法にはなかった部分である。
今回の改正でもう一つ注目すべきなのが、「何を動員できるか」を平時から把握する制度の強化である。新法第26条は、国防動員潜在力の統計調査を政府統計体系に正式に組み込み、資料を継続的に更新・分析する仕組みを設けた。
第46条から第49条では、軍需産業のサプライチェーンを安全保障の観点から評価し、設備や材料だけでなく、技術、データ、ソフトウェアまで動員能力として備蓄し、有事には軍需生産を優先する仕組みを整えた。
第72条では情報プラットフォームの管理まで規定している。さらには、国防勤務の対象には「ネットワーク安全」も明示されている。
戦争の場が陸海空だけでなく、宇宙、サイバー、AI、通信、データへ広がる中、中国の国防動員制度も対応できるように拡張されたのである。
今回の改正の本質は、「民間人を戦争に動員する法律」ではない。すでに存在していた人的・物的総動員制度を、データ、ネットワーク、新興技術まで含む21世紀型の戦争へ対応させたことだ。
習近平が10年かけて築いた「人民総動員」体制
2014年4月、習近平政権は「総体国家安全観」を打ち出した。国家安全保障を軍事だけでなく、政治、経済、社会、科学技術、情報、資源など広範な領域から捉える考え方である。
その後、中国では国家安全保障関連法制が相次いで整備された。2014年には反スパイ法が制定され、国民にはスパイ行為に関する通報が求められた。2015年には国家安全法が制定され、国民や組織に国家安全への危害に関する報告や証拠提供などの義務が課された。
2017年には国家情報法が施行された。国家情報法の第7条は、「いかなる組織および公民も、法に従って国家の情報活動を支持し、援助し、協力する義務を負う」と定めている。
2021年にはデータ安全法が施行され、2023年には反スパイ法が改正されて対象行為が拡大された。そして2026年、国防動員法が全面改正された。
反スパイ法、国家情報法、データ安全法、国防動員法改正は、それぞれ異なる国際情勢や国内事情を背景に成立しているのだが、結果的に有事の総動員体制を強化する方向に向かっている。
平時の国家安全法制と、有事の国防動員制度がつながり、国家と社会の境界が極めて薄い安全保障体制が形成されているのである。今回の改正国防動員法は、こうした体制をさらに強化するものと位置づけられる。







