日本企業を直撃する「中国依存」サプライチェーン

 改正国防動員法が施行されたからといって、日本国内にいる中国人を中国政府が日本国内で強制的に召集できるわけではない。日本国内では日本の主権と法律が適用される。

 したがって、「在日中国人が有事になれば一斉に中国政府の指示で動く」といった議論は適切ではない。

 日本にとって、より直接的で深刻なのはサプライチェーンだ。たとえば、EVやハイブリッド車、高性能モーターなどに不可欠なジスプロシウム、テルビウムなどの重希土類は、日本政府や企業による調達先分散が進められているとはいえ、精製・加工を中心に中国への依存度が依然として高い。

 抗菌薬も同様である。手術時の感染予防や肺炎治療などに欠かせないβラクタム系抗菌薬では、日本は長年、原材料を中国に大きく依存してきた。

 こうした物資について問題となるのは、中国企業が日本向け供給を拒むかどうかだけではない。有事に国防動員が実施されれば、国防上の必要に応じて、関連する生産・物流・資源などが優先配分される可能性がある。日本企業にとっては、個々の取引先の判断だけでなく、こうした制度面のリスクも考慮する必要がある。

 仮に日本向けに輸出する意思を持つ企業があっても、港湾が軍事輸送を優先すれば物流は滞る。電力が国防関連産業へ重点配分されれば、民間工場の生産能力は低下する。通信や輸送網が管制されれば、企業単独ではどうにもならない。

 企業ではなく、企業が依存している社会インフラ全体が戦時モードへ入るからだ。

 日本は2010年の尖閣問題を契機に、レアアース供給が揺らいだ経験から、中国依存の危険性を痛感した。しかし、当時と現在ではリスクの質が違う。

 現在の中国では、こうした物資やインフラを国家安全保障へ動員する制度が、より明確かつ包括的に整備されている。

 抗菌薬についても、日本政府と製薬各社はすでに供給網の強靱化や備蓄を進めている。塩野義製薬は抗菌薬原薬の備蓄を拡大し、明治ファルマも以前から備蓄積み増しを進めている。

 これは中国との緊張が起きてから突然始まった対策ではない。むしろ日中関係の緊張によって、以前から存在していた供給網上の弱点が改めて浮き彫りになったと見るべきだ。