ラッコの立ち位置

 早速クルマに乗り込んで……と、その前に。このクルマの立ち位置について触れておこう。

 BYDは2025年、純EVの年間販売台数でテスラを抜いて世界首位に立った。今や「世界最大のBEVメーカー」である。そのBYDが、日本独自の規格である軽自動車市場に真正面から切り込んできたのだ。お国の一大事である。

 英ケータハムのセブン160など、海外メーカーが軽自動車を販売した例は実は過去にもいくつかある。だが今回はそもそもの成り立ちが違う。ラッコは日本の軽自動車市場で、国産車とガチで競うために、軽規格に合わせて専用設計された“量販EV”なのである。

 BYD自身も「海外自動車メーカーとして初となる日本の軽自動車規格専用設計」と位置づけている。無謀とも呼べる大胆な挑戦ではないか。

 軽自動車は単に小さなクルマを造れば良いという訳ではない。全長3.4m、全幅1.48mの小さな小さな枠の中に、大人4人を収め、荷物を積み、取り回しを良くし、価格も抑えなければならない。モデルによっては左右のスライドドアまで要求される。日本のメーカーは、この“小さな箱”の中で、何十年にわたりミリ単位を削り、銭単位のコストダウンを積み重ねてきた。

 その激烈なる市場へ、BYDは海外で販売している小型EVを日本向けに煮直して持ち込むのではなく、わざわざ軽規格のためのクルマを新たに造ってきた。

ブレードバッテリー、CTB、2000MPa級鋼板……BYDは本気だ

 決して安直な造りではない。ベースにはBYDのEV専用技術であるe-Platform 3.0の思想があり、バッテリーは同社得意のブレードバッテリーを使っている。更にラッコはCTB(Cell To Body)を採用している。CTBは、バッテリーパックを単に床下へ搭載するのではなく、それ自体を車体構造の一部として利用する技術である。

 さらにボディの70%以上に高強度鋼を使用し、フロアクロスメンバーには2000MPa級の超高張力鋼板を採用している。大きな開口部を持つスーパーハイトワゴンの弱点を補うため、ルーフとサイドパネルの接合にはレーザー溶接まで使っている。ちなみに2000MPa級は、現在の量産車用鋼材としても最上位クラスに属する“強くて高価な鉄”だ。