それは好みの問題であり、どちらが優れているという話ではありません。

 十割そばには季節による難易度の違いもあります。

 夏場は気温と湿度が高く、生地がだれやすいため、十割そばを打つには冬場以上の技術が求められます。逆に冬場は乾燥しているため、水の量の調整が難しい。

 1年を通じて安定した品質の十割そばを提供し続けるのは、並大抵のことではありません。

江戸時代はそば粉より
小麦粉のほうが高価

 十割そばを打てるようになるまでには、通常10年以上の修業が必要だと言われます。そば粉の水分量を指先の感覚だけで判断し、練りの力加減をその都度変える。

 気温や湿度によっても生地の状態は刻一刻と変わりますから、マニュアル化できない領域が大きい。十割そばは、職人技の極致と呼べる世界です。

 近年は「十割そば」を売りにする店が増えていますが、十割であれば必ずおいしいというわけでもありません。腕の未熟な職人が打った十割そばより、熟練の職人が打った二八そばのほうがおいしいことは珍しくない。

 大切なのは比率ではなく、その比率でどれだけ完成度の高いそばを打てるかという技術の問題です。

 十割の対極にあるのが、二八そばです。

「二八そば」とは、そば粉8に対して小麦粉2の割合で打つそばです。もっとも一般的な配合で、多くのそば屋がこの比率を採用しています。

 ところで、二八そばの由来には面白い誤解があります。

「小麦粉を混ぜるのはコストを下げるため」と思っている方が多いのですが、実は江戸時代には小麦粉のほうがそば粉より高価でした。

 コムギの大規模栽培は日本では難しく、小麦粉は貴重品だった。

 小麦粉が安くなったのは、第二次世界大戦後にアメリカから大量のコムギが輸入されるようになってからのことです。アメリカ政府は自国の農家を守るために余剰コムギの輸出先として日本を選び、学校給食にパン食を導入するなどしてコムギの消費を促しました。