タクシードライバーがホッとする
「感じのいい乗客」の振る舞い

「感じのいい乗客」の言葉で、記憶に残っているものは他にもある。

 配車アプリ経由の乗客の中には、「マンションの裏口までお願いします」「エレベーターが遅いので少し待ってください」と、詳しい情報を事前に伝えてくれる人がいる。

 ドライバーからすれば、その一言があるだけで、到着してからの動きがイメージできる。「お客さんはまだ来ないのかな」「どこで待っているんだろう」といった余計な迷いもなくなる。

感じのいい人が「タクシーに乗った時」に運転手にかける〈意外な言葉〉近年は配車アプリ経由での依頼も多い Photo:NurPhoto/gettyimages
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 また、普段は急ぎの客が多いことから、タクシードライバーは「乗客はみんな急いでいるものだ」と思い込みがちだ。そんな中で、乗ったときに「急いでいませんので」と言ってくれる乗客に出会うと、少しホッとする。

 実際は、そう言われたからといって、極端にゆっくり走るわけではない。それでも「急がなければ」と焦る気持ちがなくなるだけで、運転する側の余裕は随分と違う。信号待ちをしているときも、後ろから急かされているような無言の圧力を感じない。それだけで、車内の空気が柔らかくなる。

 渋滞しているときに「これは仕方ないですね」と言ってくれる人や、工事や事故の影響で遠回りせざるを得ないときに「わかりました、任せます」と納得してくれる人も同様だ。

 もちろん、急いでいるお客さんや、渋滞に苛立つお客さんが悪いわけではない。でも、こうした一言を掛けてくれるだけで、運転する側の安心感は大きく変わってくる。

 同様に、「次の信号を右です」「あのコンビニの手前で」といったように、明確な目印を使って行き先を伝えてくれるお客さんにも助けられている。

 まだ目印が見えていないのに「次を曲がって、その先を左、そのあと大きい道に出たら右です」と前もって指示されることもあるが、特に土地勘のない場所では、プロのドライバーといえども、目の前の運転に集中しながら先々の曲がり方まで把握するのは難しいのだ。

 さらに、目的地に着いた後、自分で座席のまわりを確認して、忘れ物がないか確かめてから降りてくれる人もいる。こういう何気ない配慮も、あとでドライバーが車内を探す手間を減らしてくれる。

 会計を終えて、ふっと気が抜けるタイミングだからこそ、降車時の振る舞いには、その乗客の人柄が表れるような気がする。