客に「お釣りはいりません」と言われた
タクシードライバーの本音

 ではここで、冒頭で述べた「チップ」について、筆者の本音を明かしたい。会計のあとに、小銭を「取っておいて」と差し出された瞬間、タクシードライバーが何を思うのかをお伝えしよう。

 一般的に、チップは「サービスへの感謝」という意味を持つとされる。実際に、そうした目的でチップを払ってくれる外国人観光客もいる。

 日本にはチップの文化がないが、渡してくれる日本人客が全くいないわけではない。

 大きな荷物を運ぶのを手伝ったときや、接客を喜んでもらえたときに、「お礼です」と運賃を多めに払ってくれる乗客も存在する。「ありがとう」の気持ちを感じるので、こうした気遣いはとても嬉しいものだ。

 また、短距離のお客さんが「近くて申し訳ない」という気持ちからか、細かいお釣りを置いていってくれることもある。

 しかし本音を言えば、こうした例とは対照的に、お金を渡されたのにモヤモヤする場合もある。

 例えば、会計が面倒だったり、急いでいたりといった理由で、「お釣りはいいです」と言う人がいる。深夜にワンメーターだけ乗ってきた酔客が、小銭を数える手間を惜しんで、千円札をそのまま渡してくることもある。お釣りのやり取りを省略するためだけに、「もういいや」と受け取りを拒む人も多いのだ。

 また、大きな荷物を運ぶなど、特別なサービスを提供したわけではないのに、なぜかチップをくれる人もいる。必ずしも「感じがいい」とは言えない、マウントを取るような態度のお客さんからチップをもらうこともある。

 もちろんありがたいのだが、そうしたとき、筆者は釣銭置きに残されたチップを見ながら「これは自分に向けられたものなのだろうか?」と深読みしてしまう。

 数多くの乗客と接していると、「何かいいことをしたい」「金銭的な余裕を誇示したい」といった思いを抱えている人を、どうしても感じ取ってしまうのだ。言い換えると、ドライバーへの感謝を示したいというよりも、渡す本人が、その行為によって満足感や優越感を得たいように思えることがある。

 実際のところは本人に聞いてみないと分からないし、筆者がうがった見方をしているだけかもしれない。だが、「施し」のような感覚でチップをいただいても、手放しでは喜べないのが正直なところである。

 同じ「多く払う」という行為でも、その意味合いは乗客によって全く違う。感謝の表れなのか、お釣りの受け取りが面倒なのか、それとも他に何か意味があるのか。お金を手渡す際の何気ない振る舞いからも、ドライバーには乗客の気持ちや人柄が伝わってくる。