対応する職員もコンディションによっては、相談対応がうまくいかないときは当然あります。それに対して「プロ意識が足りない」、「最近採用された職員は能力が低い」と言っても、なにも解決しません。カスハラという言葉は、住民対応の諸問題を職員個人の自己責任の問題にすげ替えてしまっている状況に対する注意喚起の側面もあると筆者は考えます。

 もちろん、助けを求められた上司だって対応がわからないケースもあります。「カスハラ対策は組織で毅然と対応する」とは繰り返し言われてきました。しかし、その内実が曖昧なままでしたので、課レベルに丸投げされるか、マニュアルを作って満足するかで終わっていました。とはいえ上司もまた判断の拠り所がなくては、必ずしも十分に対応しきれるわけではなく、上司の負担が増してしまいます。だからこそ、上司も含めた職員が判断する際の助けになるような各論マニュアルをつくることが大事になります。

福岡県は上司へ引き継ぐ基準を
あらかじめ決めている

 福岡県では、人事課にある内部統制室がカスハラ対策を担っています。そのカスハラ対策の特徴は2020年4月1日から2023年6月30日という3年以上の長い期間をかけて、「不当な申出・要求等の調査」を実施したことをあげることができるでしょう。

 また、民間企業で導入されていた、「エスカレーションシステム」を自治体行政のなかで先駆けて導入した点も特徴的です。エスカレーションとは、業務上の下位者が対応しきれない問題を上位者に引き継ぎ、対応や判断を委ねる仕組みです。あらかじめプロセスやフローを定め、そのルールを周知しておくこと、報告者(下位者)の責任を問わないことが大切になります。

 カスハラ対策の場合、「カスハラの初期対応として、初期段階の苦情やクレームには丁寧かつ真摯に話を聞き、説明を尽くすなど適切な対応に努めます」と取り決め、苦情等が長期化・複雑化したり、悪質な事案へと発展した場合には、係長等の上司が同席・交替し、カスハラに該当するかどうかの判断を行うといったシステムになります。さらに該当する可能性がある場合、課長補佐等へ報告され、該当する場合は行為者への警告や対応終了を判断し、必要に応じて所属長が退去命令を行うという流れが組み立てられています。

 このエスカレーションシステムは福岡県での導入後、カスハラ対策を講じるさまざまな自治体が「お手本」として参考にしています。

 カスハラ対策ではしばしば「組織的に対応する」ことが肝心だと語られますが、現場で咄嗟の判断を迫られる職員は、具体的にどのような基準で上司への交替要請をしていいのかがわからないケースが多々あります。だからこそ、対応を複数段階に分け、次の段階に移る一定の基準を明示すること、そしてそのことを責められない職場環境をつくることで、現場の負担を軽減できるのです。