また、住民が自分の抱える問題を、職員にうまく説明できるとは限りません。その原因は極度に対人コミュニケーションが苦手というものから、精神疾患を抱えているようなものまでさまざま考えられます。昂る感情をうまくコントロールできない住民もいます。誰もが行政の仕組みを熟知しているとは限らず、そこから話がこじれることもあります。こうした場合も、即座に対応を打ち切り退庁いただく、というわけにはいかないでしょう。このように十分に不当といえないために対応を打ち切れないことが、職員の精神的疲弊につながるものもあります。この線引きを、現場の担当職員が、住民の目の前で即座に行うことは非常に困難といわざるをえません。

現場の判断と上司のルールが
衝突することもある

 現場の職員が住民にとって望ましい対応方針を思いついたとしても、それを周囲の職員や上司が理解してくれるとは限りません。そうした対応を「甘い」と判断されたり、「苦情対応が下手だ」と非難されることがあります。住民の要望をその場で収めるための「現場の判断」と、安易な妥協を許さない「上司や組織の規範」が対立することもあるでしょう。上司の命令と住民対応との間で現場の職員は板挟みになってしまうことがあります。

 たとえば、「手続きがわかりにくい」と長時間怒鳴り続ける住民が、「謝罪しろ」と職員に要求してきたとしましょう。現場の職員は、通常業務もあり、住民の言い分にもある程度の正当性はあるため、何らかの形で穏便に収めたいと考えます。とりあえず今は謝罪したらその場は解決し、次の業務に移れそうです。しかしながら上司は「不当な要求に安易に応じると、前例となってしまい、組織全体の規律が乱れる」と拒否するように指示します。

 この場合職員はどうしたらいいのでしょうか。上司の指示通りに対応しても目の前の住民の怒りを鎮められません。本来やらなければならない業務も後回しになってしまいます。

どれだけマニュアルを作っても
現場判断はなくならない

 3つめのジレンマは、現場と組織との間で起こるものです。どれだけ組織的な対応を試みても、結局現場で判断しなければならない領域はなくなりません。これは、汎用性と具体性のジレンマともいえるでしょう。自治体全体、あるいは部署レベルでもマニュアルや基準として示すことのできるものは、当然一般的・汎用的なものになります。ところが実際に来訪する住民は多種多様です。現場の職員たちが、マニュアルにもとづいても、個別具体的なケースにうまく対応できなければ、マニュアルは役に立たないと言われるだけです。