ロイヤル・ファミリーの面々がひとつの部屋へつどい、団欒をたのしむ。天皇・皇后が孫たちのあそぶ様子を見て、目を細める。そんな写真も、おさめられている。

 しかし、部屋のなかでだれかが靴をぬいでいる写真は、一枚もない。どれを見ても、うつされた人たちは、靴をはいている。ファミリーの集合写真は、昭和天皇をかこむ、一家団欒の光景がうつった写真を紹介しておこう。1972年の年末に吹上御所で撮影された(図1-2)。

昭和天皇をかこむ一家の写真
同署より転載 拡大画像表示
『日本人はなぜ家で靴を脱ぐのか』書影『日本人はなぜ家で靴を脱ぐのか』(井上章一、新潮社)

 さいわい、靴履きのまま屋内ですごすファミリーの写真は、少なくない。さきほどは、『皇室の昭和史』という写真集をとりあげた。だが、同じような写真を収録した書物は、いくつもある。また、ネット検索も、今はたやすくできるだろう。興味のある人は、そちらもさぐってほしい。

 いずれにせよ、ロイヤル・ファミリーの日常生活は、屋内までふくめ靴とともにある。その点では、大日本帝国時代の旧華族らと、生活感をわかちあう。爵位のあるような人たちは、皇室の藩屏、守護者だとみなされてきた。屋内で靴履きをつづけた点も、この比喩で語りうる。天皇家のとりまきとして、その文化的な孤立をふせいできたのだと思う。

 しかし、今はそういうくらしをいとなむ社会階層が存在しない。天皇家は藩屏をうしなった状態で、庶民とむきあうようになる。家のなかでは、ぜったいに靴をはかない人民と対峙する。それが今日の状況である。

即位礼で女学生たちは
靴を脱いで昭和天皇を待った

 昭和天皇の即位礼は、1928年に京都でおこなわれた。いわゆる大礼の儀が挙行されている。その式典で御所へむかう天皇をおがむため、おおぜいの人が沿道へむらがった。図26-5は、御苑内で待機する人びとをとらえた写真である。まだ、本番までには時間があったせいだろう。あつまった女学生たちのざわつく様子も、そこからは見てとれる。

図26-5 昭和天皇の大礼で開放された京都御苑へあつまる群集同書より転載 拡大画像表示

 それでも、彼女たちは靴をぬいでいた。筵(むしろ)の上へ腰をおとしている。立ったままの姿で新天皇をむかえることなど、あってはならない。拝観者は頭を低く、腰をかがめて陛下をまつべきである。当時は、いっぱんにそう考えられていた。