会社での役割が自分そのものだと思い込んでいた。会社から必要とされることが、自分の存在価値だと信じていた。しかし、その役割がなくなり、必要とされなくなったとき、「では、自分とは何なのか」という問いが浮かび上がってくるのです。

給与が半分以下になった元部長は
どうやって自分の価値を見直したか

 人材コンサルタントとして、私は多くの定年前後の方々の転機に立ち会ってきました。その中で、意識の転換に成功した方と、苦しみ続けた方の違いを、はっきりと見てきました。

 Aさんは、大手メーカーの部長職を務めていました。60歳で定年を迎え、同じ会社で再雇用されることになりました。しかし、肩書は「嘱託社員」に変わり、部下もいなくなりました。給与も半分以下になりました。

 最初、Aさんは苦しんでいました。「なぜ自分がこんな扱いを受けなければならないのか」「30年以上貢献してきたのに」。そうした不満が、彼の表情に表れていました。周囲の若手社員からも、かつての部長としてではなく、1人の嘱託社員として扱われることに、屈辱を感じていたのです。

 しかし、半年ほど経ったとき、Aさんは大きく変わりました。きっかけは、ある若手社員との会話でした。その社員が、技術的な問題で悩んでいることを知り、Aさんは自分の経験を伝えました。若手社員は目を輝かせて聞き、「そんな方法があったんですね。ありがとうございます!」と心から感謝してくれたのです。

 そのとき、Aさんは気づいたのです。「自分の価値は、肩書や給与で決まるのではない。これまで培ってきた知識や経験を、次の世代に伝えること。それこそが、今の自分にできる貢献なのだ」と。

 それから、Aさんは変わりました。若手社員が困っていれば、積極的に声をかける。自分の失敗談も含めて、率直に経験を語る。評価を気にせず、純粋に後輩の成長を願って行動する。すると、周囲の若手たちが、自然とAさんのところに相談に来るようになりました。

「今が一番楽しい」とAさんは言います。「部長時代は、評価や業績のプレッシャーで、いつも気が張っていた。でも今は、純粋に若い人たちの成長を見守ることができる。給与は大幅に下がったけど、心は豊かになった気がします」

 これこそが、意識の転換です。会社に評価してもらうために働くのではなく、自分が本当に貢献したいことのために働く。肩書のために働くのではなく、自分の成長と他者への貢献のために働く。この転換ができたとき、同じ職場にいても、まったく違う人生が始まるのです。

 一方で、意識を転換できず苦しみ続ける方もいます。過去の肩書にこだわり、プライドが邪魔をして新しい役割を受け入れられない。「こんなはずじゃなかった」という思いに囚われ、周囲との関係もギクシャクしていく。同じ状況でも、意識の持ち方次第で、人生の質は大きく変わるのです。