そこには各科の病床稼働率が示されている。小児外科が病床稼働率90%をクリアするのはかなり難しいだろう。でも、小児外科の医師たちはそんな肩身の狭い思いをする必要はない。ぼくは若い頃、(名前は伏せるが)ある公立病院に出向した。その病院も赤字に悩まされていた。

 小児外科は鼠径ヘルニアなどの小さな手術が多かったので、小児外科の部長は、心臓外科の部長から「小児外科は稼ぎが少なくて赤字だよね」「ヘルニアの手術、ガーゼは10枚も要らないよね、5枚でいいよね」とからかわれていたらしい。たしかに人工心肺を使った心臓外科の手術点数はメチャ高い。

『大学病院の正体 手術、人事、教育、研究のすべて』書影『大学病院の正体 手術、人事、教育、研究のすべて』(松永正訓、中央公論新社)

 病院首脳は改善しない赤字をどうにかしたいと思って、超有名コンサルタント会社に調査を依頼した。単に収益がどれくらいとか、経費がどれくらいかかるとかだけでなく、各科の使っている病棟の広さとか、外科系診療科であれば手術室の使用頻度とか、コメディカル(医師以外の医療従事者)をどれだけ必要としているかとか……要は真の意味でのコストパフォーマンスをその会社は計算してくれた(そりゃそうだよね)。

 その結果は意外なものだった。小児外科は決して赤字部門ではなかった。収益は少なくても、コストをかけていなかったのである。一方、心臓外科は赤字だった。収益は大きくてもハイパフォーマンスの検査や手術をがんがんやっているので、コストがそれ以上に大きかったのである。高度先進医療は儲けが少ないのである。

 病床稼働率は確かに重要なメルクマークではあるが、本当の収益の多寡はそれだけでは測れない。後輩の小児外科医たちには、ベッドが空いていてもいいから、堂々と小児医療をやってねと言いたい。