アリの巣Photo:PIXTA

アリの巣で働くアリは、なぜ自分では子を産まず、女王アリや姉妹のために一生を捧げるのか。一見すると「自分の遺伝子を残す」という進化の原則に反するこの行動は、進化論を提唱したダーウィンをも悩ませたという。働きアリはなぜ女王に反乱を起こさず、自らの繁殖を諦めてまで巣に尽くすのか。その謎を解くカギは、アリならではの意外な生殖の仕組みにあった。※本稿は、理学博士の山田俊弘『不老長寿の進化学 我々はなぜ「死」を選んだのか』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

働きアリの存在は
ダーウィンにとって「謎」だった

 進化論を提唱し、『種の起源』を書き上げたチャールズ・ダーウィンですが、当時から持論の弱みに気が付いていました。

 社会性昆虫、例えばアリの進化です。アリは集団生活を行いますが、集団は1匹の女王アリと大量の働きアリ、そして少数のオスアリから構成されるのが典型的です。女王アリは子作りに専念し、オスアリはその繁殖相手です。

 では、巣を維持する日常的な業務は誰がするのでしょうか?餌を見つけ、巣に運び込み、女王アリや子の世話をするのは、すべて働きアリです。

 さて、この働きアリですが、子を産む能力こそもちませんが、すべてメスで、女王アリの子です。ダーウィンにとって、これがまずいことでした。

 なぜまずいか理解するためには、後にダーウィニズムと呼ばれることになる、ダーウィンの進化論を理解しておく必要があります。

 ダーウィンが提唱した進化の仕組みは、単純明快です。簡単にアウトラインだけ紹介しましょう。

 子は皆、他と異なった形や性質をもって生まれてくることが、ダーウィン進化論の前提です。ダーウィンは、生まれる子の数は、親の数よりも必ず多いことに気が付きます。