つまり、働きアリに女王の支配を受け付けないような進化が起こっても不思議ではないのです。

 こんな事態になれば、「本当に働きアリが私の天職なのかしら?私だって女王のように自分の子を産みたいわ。それに世界はこんなに広いのだから、三千世界に飛び出して、自分探しだってしてみたい。きっと巣の中で働き続けるよりも、ずっと有意義な何かが見つかるはずよ!」、と巣から飛び出し、仕事を放棄して帰ってこないアリが続出するはずです。

 しかし、実際にはこうした事態には陥りません。この状況は、働きアリが女王のために働く、内的な動機付けの存在を強く示唆しています。しかし、そんなものは長い間、見つかりませんでした。

謎を解くカギは
「血縁の度合い」にあった

 この問題を解決し、ダーウィニズムやドーキンス理論とも矛盾しない考え方が、イギリスの動物学者、ウィリアム・ドナルド・ハミルトンによる血縁選択説です。

 この説では、個体間の相同染色体の重なりの程度(共有の程度)で測られる、「血縁の度合い」を通して、自分の遺伝子の存続の見込みを測ります。

 さっそく、血縁の度合いを使って、働きアリにとっての自分の遺伝子の存続の見込みを定量したいところですが、その前にアリの子作りについて紹介しておきます。

 これからの説明を理解するために必須の知識になりますので、少々お付き合いをお願いします。

 アリの性決定は、ヒトからするとずいぶん変わっています。アリのメスは2倍体の体細胞をもちますが、オスの体細胞は1倍体です。

 つまり、相同染色体の数によって性別が決定するのです。性染色体により性が決められるヒトとは全く違うので、注意が必要です。もう少し詳しく説明しましょう。

 女王アリは2倍体で、減数分裂で1倍体の卵を作りますが、もともと1倍体のオスアリは減数分裂を行わず、体細胞と同じ1倍体の精子を作ります。女王アリは産卵時に交尾をしていれば、父親由来の染色体と母親由来の染色体を1セットずつ引き継ぐ2倍体の子を産みます。つまり、子は必ずメスになります。