後者の謙虚なリーダーは、「戦略性を持った謙虚さを使っていた」のです。
 謙虚であること、いい人であることは、コミュニケーションを潤滑にするうえで大切な要素です。しかし、組織において、信頼と正確な情報を集め、成果を生み出すには、「ただ控えめなだけ」では足りないのです。

 そこに必要なのが「戦略」です。
 僕は、この謙虚さを「戦略的謙虚さ」と呼んでいます。意図と目的を持って、「謙虚さ」を使いこなす仕事の技術のことを指しています。この「戦略的謙虚さ」は、個人としても組織としても成果を生み出す大きな武器になります。

成果を自分ひとりの手柄にしない

 これは、必要な成果の共有や自分の意見を控えるという意味ではありません。
 大切なのは、自分の貢献を伝えるときにも、周囲の貢献を忘れないことです。

 謙虚さの最もシンプルな定義をお伝えします。

 うまくいったときは、チームのおかげ。
 うまくいかなかったときは、自分の責任と考える。

 まずこの考え方を持てるかどうかが、戦略的謙虚さの成否を分けます。心理学ではこの逆(成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい)を「自己奉仕バイアス」と呼びます。謙虚さは、この「自己奉仕バイアス」を意識的にひっくり返すことから始まります。
 謙虚で優秀な人ほど、「自分は運が良かっただけ」「周りの人たちのおかげです」と口を揃えていいます。

 チームはもちろん、環境や運など、自分以外に成果を帰するのです。一流の経営者はもちろん、スポーツ選手などもこういった言葉を残しています。

「過度な自己主張をしない」ことは、自分の評価を上げる最も効果的な戦略です。
 腰が低い人は、「自慢」という領域に非常に敏感です。彼らはそれが、短期的には自分の評価を上げるように見えて、長期的には信頼を損なうことを知っているのです。

 これは、聞き手の認識メカニズムの問題です。
 人間は世界をあるがままに「見ている」のではなく、その人なりの「見方」で世界を認識しています。
 この考え方は、認知心理学で「認知の枠組み」と呼ばれるものです。一度、「あ、この人は自分をよく見せたい人だ」というネガティブな枠組みを作られると、その後どんなに誠実な発言をしたとしても、歪んで受け取られてしまう可能性があります。

 その歪みは、嫉妬に発展することもあれば、「成功をアピールしてくる苦手な人」「不誠実な人」といったラベルになり、「見えない足枷」になることもあります。
 なぜなら、これらのラベルが貼られた人に協力したいと思う人は誰もいないからです。むしろ、足を引っ張られたり、困ったときに助けてくれなかったりします。
 過度な自慢や自己主張は、相手の信頼を得にくくするのです。
 だから戦略的謙虚さを持つ人は、自分の成果や貢献について「自分からは言わない」という戦略を取り、もし言う場面があったとしても「チームのおかげ」「運が良かった」と言うのです。

 ある大手メーカーの営業部長は、記録的な売上を出しながら、自分の口からは決して成果を語りませんでした。言わないことで逆に評価が上がる逆説です。実際、彼は社内で最も尊敬される存在のひとりでした。

 これは、「謙虚さ」というより、計算された「敵を作らない選択」です。
 そもそも、本当に実績や結果を残していれば、自分で言わなくてもほかの人は気づいています。数字として目に見える結果や事実は、長期的には認識されるものです。そしてそのときに、「言わなかった人」「誠実な人」という別の枠組みが形成されます。
 この枠組みは、その後、あなたの言動の信頼性を高めるラベルになるのです。

ピョートル・フェリクス・グジバチ

連続起業家、投資家、経営コンサルタント、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社GA technologies 社外取締役

ポーランド生まれ。2000年に来日。モルガン・スタンレーを経て、Googleでアジア太平洋地域の人材開発と組織改革に携わる。2015年にプロノイア・グループを設立し、組織開発と経営者コーチングを行う。講演者としても、国内外の経営層やカンファレンスで基調講演を行っている。2016年に共同創業したモティファイでは人材育成プラットフォーム「Motify」を400社超に導入し、2019年に同事業を譲渡。組織の内側、経営者、取締役会という3つの立場から、日本の組織を見てきた。著書は『世界最高のチーム』『世界最高のコーチ』(ともに朝日新聞出版)、『心理的安全性 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『NEW ELITE』(大和書房)など多数。本書が20冊目となる。エンジェル投資家としても活動するほか、東京・永田町のポーランド料理レストラン「Ani Mru Mru」のオーナーを務める。