「わからない」という姿勢が、組織を成長させる

 もう少しだけ、謙虚さがメタコンピテンシー(自分を成長させる能力)として機能する理由を掘り下げましょう。
 謙虚さは、組織の学習速度も劇的に加速させます。組織の学習速度とは、集団が新しいデータを検知し、現状の認識やエラーを修正するスピードのことです。

 意思決定の質における主要な脅威は、人間の知性の不足ではありません。
 本当の脅威は、防衛的な認知の干渉です。つまり、「バカにされるのではないか」「無能と思われるのではないか」「優秀と思われたい」「自分がこんなミスを犯すはずがない」といった認知、そして現状の自分の立場や権力を守ろうとする働きそのものを指します。

 現実を受け止めるよりも、自分のセルフイメージの防衛を優先するとき、意思決定に巨大な遅延を生んでしまいます。市場が変化していることよりも、自分の心(権力やプライド)を守ること、自分の立場や他者からの評価を維持することを優先してしまう。
 当然、意思決定に歪みが生まれます。それどころか、権力やプライドを守るために、周りの意見に耳を傾けない、組織から生まれたアイデアを否定したり潰したりしてしまうことも珍しくありません。
 意識的に謙虚さを選択することは、この歪みを排除することそのものなのです。

 組織心理学者のオーウェンズとヘクマンは、こうしたリーダーたちの「表現する謙虚さ(Expressed Humility)」を3つの行動として定義しています。

 第1に、自分自身を正確に見ること――自分の正確な強みと限界を知ること。
 第2に、他者の強みを認め、称えること。
 第3に、学ぶ姿勢を示すこと――アイデアやフィードバックにオープンであること。

 ここで僕が重視したいのは、自分を高く評価することよりも、強みと限界をできるだけ正確に捉えることです。間違いや知識の不足を、自分の価値そのものの否定と結びつけずに受け止める。その姿勢が、他者の貢献を認め、学ぶことを支えることになるのです。

ピョートル・フェリクス・グジバチ

連続起業家、投資家、経営コンサルタント、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社GA technologies 社外取締役

ポーランド生まれ。2000年に来日。モルガン・スタンレーを経て、Googleでアジア太平洋地域の人材開発と組織改革に携わる。2015年にプロノイア・グループを設立し、組織開発と経営者コーチングを行う。講演者としても、国内外の経営層やカンファレンスで基調講演を行っている。2016年に共同創業したモティファイでは人材育成プラットフォーム「Motify」を400社超に導入し、2019年に同事業を譲渡。組織の内側、経営者、取締役会という3つの立場から、日本の組織を見てきた。著書は『世界最高のチーム』『世界最高のコーチ』(ともに朝日新聞出版)、『心理的安全性 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『NEW ELITE』(大和書房)など多数。本書が20冊目となる。エンジェル投資家としても活動するほか、東京・永田町のポーランド料理レストラン「Ani Mru Mru」のオーナーを務める。