大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の助力を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。
**きれい事では済まない仕事
「阿久津専務って、四季川会長が創業したころから、ずっと一緒にやってきている人なんでしょう?」
守下が尋ねた。
「ああ。創業期からのメンバーの一人で、初期のころは営業部を見ていたらしい。強面の部長で通っていたって話だ」
沼口は答えた。
「へー、あの方もともと営業だったんですか。いつから、今のように管理本部を見られるようになったんですか」
「今の四季川達志社長がトップになった時、つまり親父さんの四季川保会長から会社の代表権を引き継いだ時だよ」
「阿久津専務って、管理系の仕事が得意なのか?」
高山が尋ねた。
「いや、数字にはぜんぜん強くないんだ」
「じゃあ、どうして管理本部を見ることになったんですか?」
守下は聞いた。
「そんなの決まってるじゃないか。専務が営業にいたら、今の社長がやりにくいからだよ」
「なんで?」高山が聞いてきた。
「会長は、会社の顔として、創業からずっとやってこられた方だろ。実際に経営をやっていると、きれい事ではすまない、いろんなことがあるじゃないか。阿久津専務は、それを担ってきたんだよ」