**凶暴な犬みたいな役回り

「どんなこと?」

 高山の問いに、沼口は小さく咳払いをした。

「いいか。会長は基本的には社員を大切にしていたし、人を育てることにも熱心だったけど、ここまで会社を大きくするまでには、いつも順風満帆だったわけじゃない。辞めさせなければいけない人材が出てきたりもしただろうし、ある時は、利益確保のために、きれいごとだけではすまされない判断をしなければいけないこともあっただろう」

「そりゃ、そうなんだろうな」高山は言った。

「阿久津専務って、そういう役回りを一手に引き受けていたんだ。四季川会長には100%忠実に従うが、それ以外の人には全く容赦ない。陰ではドーベルマンって呼ばれていたんだ。飼い主から、嚙め、と言われれば、そのまま容赦なく嚙みつく凶暴な犬みたいな役回りだって」

「僕も、入社した時に、あの専務だけには気をつけろって、先輩から教えられましたよ。にらまれると、いちばんヤバい人だって」

 守下も、小声で口をはさんだ。

「そんな具合で、社内でもっとも恐れられている存在だったから、人の好き嫌いも激しいまま、ずっときている。会長にとっては、会社を回していくための必要悪っていう位置づけなんだろうな」

「そういうものなんですか……」守下は言った。

 「とにかく、専務ににらまれた奴が、飛ばされた、辞めさせられた、という話には事欠かない。管理本部を管掌するようになってからは、金の動きと人事部門を見ているから、特にそうだな」

「阿久津専務は、今は現社長のドーベルマン役をやっているんですか?」

 守下が尋ねた。