大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の支援を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。
**PDCAのサイクルを必死に回す
「ところで、手や体を動かす作業を分業すると言ったが、どんな商品が売れるのか、どんなチラシがより集客に有効なのか、などを考える仕事、つまり手や体より、頭を先行させて使わなければいけない仕事もある。多分、四季川さんは、今度はこんなチラシを作ってくれ、こんな商品を仕入れたほうが他の店に勝てるから探してきてくれ、こんな商品をメーカーに作ってもらおうなどということを、ずっと自分で考え、人に指示をしてやらせていたはずだ。そういう『考える仕事』を一般的に何て言う?」
「『考える仕事』ですか……」
高山は、自分の乏しいボキャブラリーから必死で言葉を探したが、その様子を見ていた安部野は先に、「企画だろう?」と答えを言った。
「事業の総責任者であり、当事者である四季川さんは、事業を成功させ、成長させるために、昼夜、考え続けたはずだ。商品部、営業部、販促部をつくったとしても、その企画意図、つまり、どういう効果を狙って、どのようなものにするのかについては、自分自身で考えて、かなり具体的に指示をしていたはずだ。担当者につくらせたとしても、それでいいかどうかの最終判断は、最後まで自分自身が納得いくまで考えて行っていたはずだ。当然、うまくいくことばかりではない。読みが外れることもあっただろう。そして、その読みが外れた時には、外れた理由を徹底的に考えたはずだ」
高山は、「何をやっても、人手とお金がかかりますものね……」と言った。
「四季川さんは必死で、次は、もっと売上が上がるようにしよう、儲けよう、大きく成功させようと、いろいろなことを考えて実践と結果の検証をし、それを繰り返したはずだ。これを一般的にPDCAサイクルという。聞いたことあるかな」
「いいえ、ありません」
高山は即答した。何も知らない自分が憶測で、どうこう言うのは時間のムダだと思った。