**『成功した創業者』が一人で行っていたのが企画業務

「今日はこれ以上、今の君に話をしても、言葉の遊びになってしまうな」

 と話をいったん止めた。

 高山の頭は、ほとんど沸騰状態だった。

「いずれにせよ、会社の企画業務については、当初は『成功した創業者』が全て、一人で一手に行っていたということだ」

 安部野は、椅子に深く腰掛け、一息ついた。

「で、今回、君が配属された部署はどこだった?」

「経営企画です……。あっ」

 高山は虚をつかれた形になった。ここまでの話に聞き入っていて、経営企画の業務について教えを請いに来ていることを完全に忘れていた。

 安部野は高山の顔を、ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべながら見ていた。

「安部野さんの話をここまで聞いていて、企画というものがどういうものかは少しわかりましたが、経営企画ということは、どういうことをすればいいのか、まだ、全くわからないです。一体、経営企画では、何を企画すればいいんですか?僕は、経営のことをわかっているスペシャリストでもなんでもないですし」

「そりゃそうだ」と安部野は言った。

「ここまで話したように、事業の発展と共に、会社は成長し、組織の分業が進むわけだ。世の中で組織論と言われるのは、分業のための方法論だ。よって、会社の発展に伴い、規模や業態によって、適用すべき方法論は変化してくる。当初、創業社長は、全てなんでも自分でこなしながら、事業を行っている仲間や部下との分業を進めながら、組織をつくっていく。そして、次のステップへの挑戦のために仮説を立てる、企画という業務についても、組織の中に落とし込んでいく」

「そこまでは、わかりました」

「そして最後に、人に任せられなくて、最後まで『成功した創業者』が自分自身で考えて行ってきた業務が残るわけだ」

「それが、経営企画なんですか?」

「その通り。言い方を換えると、参謀機能ということになる」

「ここからは、あんまり、べき論ばかりを話してもしょうがないな」と安部野は言った。

「君の会社の発展の節目となった転換点についての話をしよう。この話が経営企画に求められる役割を説明するのによいはずだ」

 このような話を聞くのは、高山にとっては、はじめての経験であった。頭に疲れは感じていたものの、高山は、話をもっと聞きたいと思った。

「お願いします」

 高山は答えた。

(つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。


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