大手紳士服チェーン「しきがわ」の販売スタッフ高山 昇は、経営幹部の逆鱗に触れ、新設の経営企画室に異動させられてしまう。しかし高山は、持ち前の正義感と行動力を武器に、室長の伊奈木やコンサルタントの安部野の支援を得ながら、業績低迷が長引く会社の突破口を探すべく奮闘。若き経営参謀として一歩ずつ成長する――。企業改革に伴う抵抗や落とし穴などの生々しい実態をリアルに描く『戦略参謀』が8月30日に発売になりました。本連載では、同書の第1章を10回に分けてご紹介致します。

**成功事例を上手に取り込む

「ある日、四季川さんは、地価の安い郊外立地での商売の将来性に気がついたのだ。最初は、街中の商店街か、駅前に店があったはずだ。百貨店で買う衣料品が高めなのは、百貨店側に支払っている賃料に相当する分が、場合によっては売価の30〜40%程度にまでなるのが大きい要因だ。百貨店で売っていたスーツが高かったのも、これが一番の理由だ」

 高山は、子どものころに親と行った百貨店を思い浮かべた。確かにあの当時も、駅の前とか、大きな商業地にあったな。

「同様に、駅前や商店街は、買い物客が集まってくるというメリットがあるため、高めの賃料を払っても店を構えたいということになる。四季川さんが最初に紳士服を売る商売をはじめたのは、どこかの商店街の中じゃなかったか?」

 確か、新入社員研修の時にしきがわの1号店の写真を見せられたことがあったが、言われてみれば、アーケードのある商店街で、隣に女性洋装店のカンバンも写っていたことを思い出した。

「商売が順調になってきたころに、小売業の海外視察ツアーなどに参加して米国の郊外店舗を見てきたのだと思う。1970年から80年ごろの米国では、今の日本に先駆けて、スーツを安く売る店が郊外で数多く展開されていたんだ」

「そうなんですか……。じゃ、その郊外で展開している米国のスーツの店を真似て展開したのが、今のしきがわなんですか」

「真似というよりも、よい事例を積極的に取り込んで、自身のやり方にしていった、という表現のほうが適切だ。事業開発においては成功事例の上手な取り込み方は重要な視点だからな。郊外の店と、商店街での店の一番違う点はわかるかな?」

「郊外の店では、ほとんどのお客さんはクルマで来店します」

「そうだな。郊外立地では、商店街などの商業集積地と違って、店の前に人はほとんど歩いていないということだ」