**高山のメモ

 夕暮れ時になっていた。高山は東京駅行きのJR中央線に座っていた。

 安部野の話をメモしたノートを眺めながら、頭の中では安部野の言葉が駆けまわっていた。

「どうまとめればいいんだろう」一人でつぶやき、途方にくれていた。

 自分の書いたメモを見ながら、頭の中では、高山は、自分で書き落とした安部野の言葉を、反芻していた。

●社長は、日々、様々な課題についての判断をしている
●会社の方向性を明言しなければならない
●各部内でのPDCAがちゃんと回っているかを見ておくべき
●規模に応じて、体制やシステムづくりの推進も必須。採用方針を明確にする、会社の組織をどうするのかなど、会議体の整備、システムの整備などは後回しにできない課題
●社長の判断の精度を高めるため、あるいは現部門の担当にできないことを行うために、社長と課題の議論をし、必要なことは社長の代行として動き、プロジェクトを動かす
●社長を補完するこれらの機能は、会社の規模が大きくなるほど重要になる

 メモを眺めても、単語一つ一つは全て知っていても、文章として見ると、まるで呪文のように、わけのわからない文がつながってるように今は見える。安部野に言われたことは、高山のこれまでのビジネス経験で培った器では、到底入りきるものではなかった。

 安部野は、最後に高山に言った。

「今日の話を具体的に実施するにはどうしたらいいか、よくリアルに考えるように。そして、わかったと思ったら会いに来ていい」

 やがて睡魔に襲われた高山は、気がつくと終点の東京駅で目が覚めた。

(つづく)

 ※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。


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