「お前、本当に優しいヤツだな」。
小さな工場で奇跡が起こる

 すると、彼は私の目をじっと見つめ「お前、本当に優しいヤツだな。俺は何十年もこの工場に勤めてるけど、お前みたいに優しく、一生懸命に俺たちのことを思ってくれるヤツにははじめて会ったよ。ありがとな」と言ってくれました。私はその言葉を聞いた瞬間、嬉しくて涙が出ました。

 しかし、本当に驚いたのはその後です。翌朝、私はその人の部署に足を踏み入れて仰天しました。まわりを見まわしてみると、その人を含めベテランの人たちがみんな安全帽をかぶっているではありませんか。

 これまで何十年もかぶっていなかった帽子をかぶり、何事もなかったかのように仕事をしているのです。

 いったい何が起こったのか。私はわけがわかりませんでした。しかし後で聞いてみると、昨日ケガをした方が「浅井がああ言ってるんだから、浅井の一生懸命さに応えて、ちゃんとした格好くらいしてやろうじゃないか」とみんなに呼びかけてくれたのです。私は感激して涙を流し、その人のところへ走って行ってお礼を言いました。