高い志と目標を持つことも重要です。人は放っておくとサボったり怠けたりするのが常ですから、高い志や目標を持っていないと何もしないうちに年を取ってしまいます。僕もいつも自戒しています。前進しているときでも、ちょっとした成功で満足することなく、常に「ひょっとしたら自分の会社はつぶれるんじゃないか」と危機感を持って経営することが肝要です。
まとめると、本物の起業家とは、相当な勇気と度胸を持つと同時に、高い志と目標を持ち、試行錯誤を繰り返しながらチャレンジし続け、常に危機感を失わず、日々の実務に邁進する実務家といえます。これを100%体現するのは難しいですが、成功したときの達成感は何ものにも代えがたいくらい大きいと思います。
日本の資本主義の父・渋沢栄一の起業観
江戸時代の末期にフランスから帰国した渋沢栄一は、君主の徳川慶喜が十五代将軍になって大政奉還した後に、日本初の銀行兼商社である「商法会所」を設立しました。その後、一旦は大蔵省に招かれましたが、実業界に移り470社もの会社を設立するとともに、公益事業にも大きな足跡を残しました。彼の残した書物や言葉の数々は、現代にも大いに通じるものがあります。
渋沢は自分1人が金儲けをするつもりはなく、あくまで国を富ませ人々を幸せにする目的で起業し、さまざまな事業を育成しました。三菱・三井・住友のような財閥をつくらなかったという事実が、それを証明しています。
「成果をあせっては大局を観ることを忘れ、目先の出来事にこだわってはわずかな成功に満足してしまうかと思えば、それほどでもない失敗に落胆する。
こんな者が多いのだ。高学歴で卒業した者が、社会での現場経験を軽視したり、現実の問題を読み誤るのは、多くの場合このためなのである。ぜひともこの間違った考えは改めなければならない」(『現代語訳 論語と算盤』渋沢栄一著、守屋淳訳、ちくま新書)
自分さえ良ければそれでいい、自分の都合しか考えない……こんな事業は絶対に成功しません。利益を得ようとすることと社会に役立つことのバランスを取ってこそ、国全体が健全に成長し、個人もちょうどよく富を築くことができると、渋沢は言っています。