成功した起業家はどんな理由で起業したのか

 ここで起業のきっかけの事例をいくつか示しておきます。人それぞれで、みんな違うということを実感してください。

 4万人に1人しか発病しないといわれるポンペ病は、筋肉の働きが衰えて死に至る先天性の病気で、治療薬がありませんでした。あるとき、2人のわが子がこの病気だと診断されたジョン・F・クラウリーは、新薬を開発するためにすべてを捨てて、まったく畑違いの医療界に飛び込みました。

「子どもたちの病気が体を徐々に蝕んでいくにつれ、研究の方向性にもペースにも不安が募っていった。そこで私たちはリスク、それも大きなリスクを取ることにした。二〇〇〇年三月に大手製薬会社のマーケティングの仕事を辞め、ある研究者と小さなバイオテック・ベンチャー、ノバザイム・ファーマシューティカルズ社を立ち上げたんだ。その会社はポンペ病の治療法開発に特化した会社だった」(『奇跡は起こせる』ジョン・F・クラウリー著、山本雄士訳、宝島社文庫)

 ジョンは、絶対に病気を治せるという信念を持って起業に踏み出したのだと思います。

 1967年、大学在学中にレストラン「サイゼリア」を開業した正垣泰彦さんは、現在、サイゼリアの代表取締役会長です。低価格メニューの提供で店舗数を飛躍的に拡大し、2000年には東証1部に上場しました。13年3月末の国内店舗数は959店、12年8月期の売上高は1042億円です。起業のきっかけは実に楽しいものです。

「学生時代、アルバイトばかりしていたが、最後にしたのが飲食店の皿洗い。そのときの仲間に『おまえと一緒に働きたいから、ぜひ店を開いてくれ』とおだてられて始めたのが、千葉で開店した『サイゼリア』だった」(『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』正垣泰彦著、日経BP社)

 仲間におだてられてニコニコしている正垣さんの様子が目に浮かびます。よくありそうな事例ですが、きっかけというのは、自分でも何となく考えていたことを行動に踏み出すスイッチみたいなもので、普段はどこに潜んでいるのかわかりませんね。