「人件費を減らしながら減税し、市民に返していきたい」

 名古屋市の河村たかし市長は4日の年頭会見でそう語り、「職員にひと肌脱いでいただきたい」と訴えた。名古屋市は4月から、市民税の10%減税を実行する。

 市民税減税は、河村市長が昨年4月の市長選で掲げた目玉公約の1つ。行財政改革を徹底し、削減分を重税感に苦しむ市民に還元しようというものだ。減税を先行し、あらかじめ歳入を縮小させて歳出をカットする手法である。退路を断ったうえで、行政のムダを排除する、いわば崖っ縁戦略だ。零細企業の経営者として長年、実経済の現場で苦労を重ねてきた庶民派ならではの発想だ。

 自治体に課税自主権が認められるようになったとはいえ、減税する自治体はこれまで皆無に近い。しかも、恒久的な減税となると名古屋市が全国初。中身はこうだ。

 市民税には収入に関係なく支払う「均等割」(一律3000円)と、収入に応じて支払う「所得割」がある。前者は行政サービスを受けるための“応益負担”、後者は富の再配分の性格を持つ“応能負担”で、所得に対し6%と一律に定められている。

 これらについて名古屋市は4月から、均等割と所得割共に10%軽減する。つまり、均等割は2700円で、所得割は税率5.4%となる。個人市民税のみならず、法人市民税も同様に減税される。

 名古屋市の試算では、来年度の減税額は約161億円に上る。問題はその財源だが、名古屋市はもともと富裕な自治体で、財政力指数は1を超える。そして職員数は2万6000人(教員を除く)に上り、人件費は2000億円に達する。1割カットしたとしても200億円になる。名古屋市に倣えば他の自治体も、そして国も、増税ではなくて減税を実現できるのではないか。

 さらに河村市長は、減税をアピールして個人や企業に名古屋への移転を呼びかける。キャッチフレーズは「住んでちょーよナゴヤ 市民税10%減税」だ。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相川俊英)

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