「売上を上げましょう」そんな指示はハッキリ言って意味ないですよ

田中 森さんが社長に就任してからの2年半におけるカッシーナ社の再建ストーリーについてお伺いします。端的には粗利率の改善によってずっと赤字だった業績が黒字化しましたよね?

 確かに結果はそうかもしれませんね。

田中 粗利率の改善のために取り組んできた打ち手を教えていただけるでしょうか?

 私はいつも社員に言っているんですよ。自分たちでコントロールできるものから手をつけなければいけないんだ、と。「売上を上げましょう」と言ったって、売上なんてコントロールできないわけです。なぜなら、お客さんがいるわけですから。そんな指示はハッキリ言って意味ないですよ。それには仕組みがちゃんと必要です。だから、「売上を上げましょう」なんていうことは、私は言わなかったんです。

田中 では、どんなメッセージを発信したんですか?

 自分たちでコントロールできるものは何なのだ?と。まず、自分の「時間」でしょうと。それから自分たちが売り買いしている商品の値段を決められるんだから、「粗利率」でしょうと。あと自分たちでお金を使っているんだから、「経費」でしょうと。売上を上げることよりも、自分たちでコントロールできることをきちんとやれる会社になろうよと。そこから始めたわけです。

田中 森さんがいらっしゃる前はどういう状態だったんですか?

 粗利率の悪化は、コントロールできない為替レートも要因のひとつでしたが、バーゲンでのディスカウントが大きかったり、納品先に言われるがままの納入率(卸値)で卸していたりしたことが原因でした。自分たちの意思がなかったんですよ。言われるがままの条件でハイハイと商品を売っていたから粗利率がドンドン低下していったわけです。粗利率が悪ければ取引を断ればよいものを、売上が欲しいからと不利な取引条件を受けていたんですよね。自分たちで事業をまったくコントロールしていないわけですよ。