再生させる会社には、ひとりで乗り込むし、社員のクビも切らない

田中 森さんの経営スタイルのお話しになるんですけれども、一般的に会社を建て直すときは、いわゆる助さん、角さんを連れていきますよね。例えば、営業のプロなどを連れて、経営再建チームとして乗り込んできます。そして、最初にクビ切りをやりますよね。だけど、森さんの場合、毎回、自分ひとりで乗り込むうえ、クビをバサッと切ることも絶対にしません。それでも会社を再生させられると考える森さんなりの根拠は何でしょう?

 何でしょうね…。性善説じゃないですか?基本的に、人はちゃんとやれば働くものだと思っています。実は、この会社へ来る前にいろんな人に相談したところ、「もうあの会社には優秀な人間は残ってない」とか「モチベーションは低いし、森さん、行くのはやめたほうがいいんじゃないの?」などと言うわけですよ。でも、それは行ってみないとわかりませんよね。人はいるだろうと。ただ、力の発揮のしかたを知らないだけではないのか?と私はいつも考えるわけですよ。

田中 私が森さんに初めてお会いしたとき、いきなり「お前、声がでかい。うるさいんだよ」と言われて、ずいぶん取っつきにくい人だなぁと思ったんですね(笑)。でも、愛のある厳しさを持った方だなぁと。時には社員に厳しい言い方をされるんですか?

森 「バカじゃないの?」なんて言ったりしますよ。どんな人でも教えればできるようになると思っているからです。思考と行動のスピードについては特に厳しく言っていますね。「お前らは寝てるカメか?」「普通ウサギが寝るんだろ。カメなのに、なぜ寝てるんだ?」ということも時には言います(笑)。

田中 そしたら、もっとできるウサギを連れてくるなり、できないカメを一掃する方がラクだと思うことはありませんか?

 私はラクなのが嫌なんですよ。普通、会社の再生って、債務をカットして銀行が泣くだけじゃないですか。ああいうやり方は真の再生と言えないと思っています。やはり自分たち社員が立ち上がって、自分たちの力でちゃんとなって初めて企業の再生ですよ。レバレッジをかけてエグジットした後の会社はどうなってもいいという投資ファンドのやり方は「再生」と言えますか?という話じゃないですか。それで「どうだ、私は再生しました」「キャリアを積みました」と言って転職を繰り返している人はいますよ。でも、そんなものを見ても私はそうなりたいと思いません。

田中 「強くなければやさしくなれない」という言葉がありますが、森さんがまさにそうですね。

 結局、人を信じる、仲間を信じるというところから始まるわけじゃないですか。1回言ってできなかったら2回やらせてみる、2回やってダメだったら3回やらせてみる。チャンスは常に与えて、できなかったらきちっと叱ってあげる。本当の再生というのは、こんな地道なことの繰り返しですよ。

田中 森さんが入られたときに残っていたメンバーがベストメンバーなんだ!と信じるところからスタートするわけですよね。

 会社が赤字を垂れ流してボロボロになっても、彼らが100%悪いとは言いきれないじゃないですか。経営陣にも責任があったわけですから。彼らにだって責任はありましたよ、当然。それでも、そんな責任を問うたって始まらないじゃないですか。

田中 森さんは、請われた会社に社長として乗り込むとき、全社員の名前を覚えるところから始めますよね。

 全員のファーストネームも漢字も覚えますし、キャラクターやファッションも全部言えますよ。今日どういう靴を履いていたとか、全部覚えています。そういうふうにしないと会話が始まらないでしょう。だって、上から目線で「俺が社長だから俺の言うこと聞け」なんて言ったところで普通の人はどこから来たかわからない人の言うことを聞くわけないじゃないですか。