嫌なことをやるのが経営者なんですから、嫌な役回りは「私がやるよ」
田中 こちらの図は、ある会社の得意先ごとの売上と粗利率をプロットしたものです。これを見てわかるように、値決めというのは多くの会社で無秩序に行われているんですよね。
森 現場に任されていますよね。
田中 通常は取引規模にかかわらず粗利率一定か、取引規模が大きくなるにつれて粗利率が下がっていく(大口得意先をひいきする)、つまり、横に平行か右肩下がりにプロットされます。私がこれを社長さんにお見せすると、「あ、取引規模が小さい得意先の粗利率を上げればいいんですね」と言って頭では理解します。でも、実際には実行できないことが多いんです。得意先に対して条件変更を迫るのが嫌ですから。
森 だって、嫌なことをやるのが経営者なんですから。得意先のトップに取引条件の変更をお願いするといった嫌な役回りは「私がやるよ」と。トップ自ら行ってちゃんと話をするんですよ。そして、日々の取引は、現場のあなたたちが自分で管理をしなさいと。
田中 それでも、得意先に怒られたら怖いとか、取引を打ち切られるんじゃないかとか、不安が頭をよぎりますよね?
森 打ち切られてもいいんですよ(笑)。だから、私がこの会社に来たときは「売上が減ってもいい」と言っていたわけですよ。こちらの合理的な条件変更の要請を理解していただけない得意先だったら、良い関係は続けられないからやめようよ、と。それで、現実に離れていった得意先がいっぱいあるんですから。
田中 普通は、その決断がなかなかできないんです。
森 それは中間管理職ではできないんですから、トップが自ら決断しないといけないんですよ。得意先を失うことになる営業担当者は「え~!?」などと言うけど、「え~じゃないんだよ!」と切り返します(笑)。
田中 そのときに、どこまで得意先が減っても大丈夫とか、そのあたりの数値的なインパクトは見積もっていたんですか?
森 自分のなかでは、ですね。
田中 それはどうやってはじき出すんですか?
森 それは長年の経験ですよ。ここの部分でこれだけなくなっても、自分がこの部分でこういう手を打っているから大丈夫じゃないか、といったような感じです。
田中 そのときの目算としては、例えばどれくらい得意先の数が減っても大丈夫という計算があったんですか?
森 やはり、粗利率が低い商売をすることが社内にもたらすマイナスの影響を無視できないんです。
田中 得意先の数にこだわるよりもマイナスの影響をなくす方が社内に対する効果は高かったと?
森 だから、売上は減ってもいいと私は思っていますよ。もっとも、これでは永遠には続かないわけですよ。企業は、やはり売上を伸ばさなければ成長しませんからね。売上減を認めるというのは、中長期的には間違った戦略だと思いますけど、経営不振の会社を再生するときには、まずコントロールできるものは自分たちでコントロールできる会社にしないと売上を伸ばすことなんかできません。それができるようになったら、では、次は売上を伸ばす会社にならなければダメですよねというのが、いま私が挑戦している3年目です。