世界経済を危機に陥れかけた米国の政治闘争は、ギリギリで妥結した。
10月16日、米国の暫定予算と債務上限引き上げ法案が、上院・下院で可決された。暫定予算成立の遅れによる一部政府機関の閉鎖は2週間以上に及んだ。
さらに深刻だったのは債務上限の引き上げ問題で、もしこれに失敗すれば、政府の資金繰りがつかなくなり、国債の利払い停止などのデフォルト(債務不履行)という最悪の事態に陥りかねなかった。米財務省が資金繰りの限界として示した期限は10月17日であり、まさに土壇場での成立だった。
焦点となったのは、民主党が打ち出している医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」と、財政再建の方法だ。オバマケアを看板政策とする民主党に対し、これを何とか葬りたい共和党は、実施1年延期を暫定予算成立と債務上限引き上げの条件とした。また民主党の富裕層への増税案に反対し、歳出削減を強化することを求めた。
予算と債務上限引き上げをめぐる民主党、共和党の駆け引きは毎年の恒例行事となりつつあるが、今回は両党ともことさら強硬であり、デフォルトを“人質”にして、妥協を拒み続けた。しかし、経済への影響を顧みない政治闘争は国民の反発を招き、特に共和党の支持率は急落。最終的には共和党側が大きく譲歩する形となった。
来年1月には問題再燃
ただし、今回を乗り切っても、問題が解決したわけでは全くない。
成立する予算は2014年1月15日までの“暫定”であり、債務上限引き上げも、2月7日までの一時しのぎにすぎない。来年1~2月には、また同じことが繰り返されるのである。
社会福祉の重視から“大きな政府”に向かいがちな民主党と、自由競争を重視し“小さな政府”を是とする共和党の隔たりは大きい。「意見が合うわけがない状態」(桂畑誠治・第一生命経済研究所主任エコノミスト)だ。「国民自体の意見が二分され、両党とも妥協がしにくくなっている」(安井明彦・みずほ総合研究所政策調査部長)。
実体経済への影響も無視できない。すでに住宅販売や観光業などで政府機関閉鎖による下押しが明らかになっているが、この先も不透明性が続くことで、消費者や企業のマインドが悪化し、設備投資や雇用に悪影響を与える恐れがある。
市場は、繰り返される茶番劇に慣れてしまい、実際にデフォルトになることはない、と高をくくっている。今回も、乱高下はあったものの、さほど大きなものではなかった。
確かに、デフォルトの確率は小さい。だがゼロではなく、リスクは次第に高まっている。「債務上限問題がここまでこじれたことは従来なかったのだが、その意味を市場はまだわかっていない」(鈴木敏之・三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミスト)。
危機にまでは至らなくとも、同様の駆け引きが今後も続けば、米国への信認は少しずつむしばまれていくだろう。そして、ひとたびリスクが現実になれば、世界はリーマンショック時以上の打撃を被りかねない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)