
アサヒグループホールディングスが大胆な構造改革に取り組んでいる。国内事業を統括するアサヒグループジャパンの子会社で、総務や人事、経理などの間接業務を担うアサヒプロマネジメントの全株式を、将来的にアクセンチュアに譲渡する計画が進んでいるのだ。特集『アサヒ 王者の撤退戦 ビールメーカーの分水嶺』の#2では、“黒字リストラ”ともいえる施策の進捗と、背景にあったアクセンチュア側の事情を詳報する。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
過去最高益を達成する一方で
グループ社員約400人を“強制転籍”へ
「“リストラ”ともいえる仕打ちだが、そもそもアサヒ側は辞めさせようとはしていない。結局、大半の社員が残ることになった」
こう話すのはアサヒの国内グループ各社の総務や人事、経理などの管理・間接業務を担う子会社、アサヒプロマネジメントの社員だ。ダイヤモンド編集部が2025年5月に詳報したように、アサヒグループホールディングス(HD)は大胆な構造改革に着手しようとしている。(詳しくは本特集#1『【独自】アサヒグループHDが社員約400人をアクセンチュア子会社に強制転籍へ!「リストラではない」社長の言い分を入手』参照)
25年2月、アサヒグループHDは25年10月をめどに、人事・総務・経理・営業サポートなどの管理・間接業務を担っていたアサヒプロマネジメントの株式80%をアクセンチュアへ譲渡し、ジョイントベンチャー化すると発表した。社名は変更せず、ジョイントベンチャー化された後も、これまで通りアサヒグループの管理・間接業務を受託する。
現在、アサヒプロマネジメントの多くの社員はグループ各社からの出向者だが、ジョイントベンチャー化に伴って同社へ転籍する。原籍会社に戻る選択肢はなく、“強制転籍”といえる通達だった。
さらに、ジョイントベンチャー化から3年後の28年10月には、新たな処遇が待ち受ける。アサヒが保有する20%分の株式をアクセンチュアへと売却し、全株式をアクセンチュアが保有する形となる。つまり、同社へ転籍した元アサヒプロマネジメントの社員は、「アクセンチュア子会社の社員」になるのだ。
ジョイントベンチャー期間とアクセンチュアの完全子会社となる移行時には、現在と同等の待遇が維持される。しかし、28年10月以降はアクセンチュアの人事評価基準が適応される。
一連の改革は、アサヒグループHDから社員約400人を切り離すという決断だが、同社の足元の業績は悪化しているわけではなく、むしろ絶好調だ。24年12月期の連結決算では売上収益、営業利益共に過去最高を更新。25年12月期第1四半期の売上収益は前年同期比2.2%増の6304億円、営業利益は同4.3%増の339億円だった。
国内事業を統括する中間持ち株会社、アサヒグループジャパンの濱田賢司CEO(最高経営責任者)は一連の決定は「リストラではない」と説明し、「アクセンチュア子会社で管理間接業務のプロを目指すことがそれぞれの社員のためになる」と強調している。
すでに改革は動きだしているが、果たして新体制への移行はスムーズに進んでいるのか。アサヒグループHD関係者によると、想定していなかった事態が発生しているという。また、一連の決定の裏にはアクセンチュア側の事情もあるようだ。
次のページでは、“黒字リストラ”で退社を選んだ人数のほか、現場の混乱ぶりを詳報する。