クリエイティブな儀式
「クリエイチュアル」とは?
チームメイトのシグリッドがカオスパイロットの引っ越しの儀式をデザインするときに参考にしたのは、学校のプロジェクトでクライアントとして一緒に仕事をした、メイカ・ジグラーさんという方です。
メイカさんは企業やNPO、個人向けに、クリエイティブなリチュアル(儀式)をデザインし実施する”「クリエイチュアル」 (http://www.creatuals.com/)を立ち上げた創始者で、オランダを拠点に世界で活躍しています。
そんな彼女がシグリッドの紹介で、先日カオスパイロットにクリエイティブな儀式をデザインする手法を教えるため、新校舎に来てくださりました。過去の実績紹介から始まった彼女の授業はとてもエキサイティングなものでした。誰もが経験したことのないようなクリエイティブな儀式だったからです。
中でも、オランダのイベント会社がクライアントで彼らの顧客向けにデザインされた儀式は特別に印象が残っています。参加者が160人規模のイベントで、1日かけて行った儀式でした。
メイカさんがクライアントから与えられた課題は、離島でクライアントが“幸せ”に触れることができる儀式をデザインすること。最初にクライアントが考えていたのは、幸福に詳しい専門家を読んで講義を行うというアイディアでした。
それに対して、メイカさんはなぜ離島まであえて行く必要があるのか? とクライアントに問いかけ、これまでにないような新しいスタイルのクリエイティブな儀式を実現しました。
約160人のクライアントが離島に到着して最初に渡されたのはMP3プレイヤー。用意された心地の良い椅子に座り、耳に流れてくるのはマイキさん自身が考えたという幸せについて語ったおとぎ話です。
それは、お金のことばかりを考えていた工場長がある子どもと出会ったことをきっかけに、彼にとって本当の幸せにとは何か気づくという内容の物語でした。深く考えさせられるテーマですが、気持ちの良い日差しの下で聞くおとぎ話は、くすっと笑えるもので、今を生きることの大切さを教えてくれます。
その後、参加した人々は島にある要塞に向かいます。要塞の中に設置されたテーブルには実験室にあるような試験管と特別な素材で作られた紙が用意されています。
自然の素材でできたインクを使って、参加者は“自分を幸せにするものは何か?”の問いに答えるものを書きます。それを雨水が入った試験管の中に入れると、文字のインクが液体に混じり、すっと色づき消えていきます。
この“幸せの特効薬”を参加者は首にかけ、またある部屋に向かいます。そこには大きな木製のキャビネットがあり、160個もの番号付けされた蝶々のさなぎが参加者の手助けを得てふ化するのを待っています。
そんなミステリアスな空間で、参加者は自分の番号の下にあるさなぎを見つけて、雨水で潤いを与えます。儀式が終わった後、メイカさんはすべてのさなぎを自分のスタジオに持ち帰り、まるで動物園のように湿度管理がしっかりされたグリーンハウスを設置しその中で160個のさなぎを見守ります。翌日には3つのさなぎがふ化しました。
それぞれのさなぎがふ化する度に、日付を記録していきます。全部で6種類の蝶々があり、それぞれの蝶々の写真が入ったカードにクライアントの名前、彼らのさなぎがふ化した日を「あなたの幸せが誕生しました」というメッセージを添えて、一人一人にメッセージを送ったそうです。
さなぎから蝶々になるまでの変化を通して「今度はあなたが変わる番です」というメッセージを伝えたかったという、メイカさん。幸せとは何か答えは人それぞれです。
誰かの価値観を押し付けることなく、これまでの人生を振り返り、自分なりの定義ができる機会と場を用意しました。小さな美しい生命が誕生する過程を見ながら考えた、自分の幸福観について人々が忘れることはないでしょう。