クリエイティブな儀式をデザインする
人生にストレスはつきものです。食べること、買い物をすること、様々な方法で一時的に忘れることはできますが、メイカさんのお話から学んだのは、こういった行動は、痛みを麻痺させて一時的にわからなくしているだけで、根本的な問題の解決には繋がらないということです。
見えないところに傷を隠して、何事もなかったかのように振る舞うのではなく、時間をかけてでも真実とは何か見つめられるクリエイティブな儀式で、一歩前進することができるのでしょう。ポイントは、こうしたクリエイティブな儀式は自分で作れるということです。
メイカさんは儀式のデザインについてこう教えてくれました。
「人はみなクリエイティブな人間として生まれてきています。クリエイティブな人のグループ、そうでない人のグループなどありません。私はクリエイティブな儀式を通して、人が物事を見る力を刺激したいのです。
私たちは見ているようで見ていません。もう一度、見つめてほしい。もう一度、耳を傾けてほしい。2回目に聞くときは違って聞こえてくるはずです」
彼女は過去に7ヵ国に暮らした経験があり、そこで様々な文化の儀式を経験し、「この世にただ一つの真実はない、すべてが人によって作られた物語で儀式も同じ」と気づいたそうです。
メイカさんの儀式、カオスパイロットの儀式のデザインの手法から学べることは、何かこれからの人生で受け入れがたい変化が起きたとき、その変化が一体何を意味しているのか、まずはじっくりと心の声を観察することの大切さです。
その後、その変化を表すシンボルとなるものを見つけるのです。引っ越しの場合は、『2001年宇宙の旅』のモノリスでした。メイカさんの場合は真珠のネックレスでした。次にその変化について、何をすれば乗り越えられるのかを考えるのです。
カオスパイロットの場合は思いを集め、形にして運び、移すという“進化”を促す作業。メイカさんの例では、繋げてくれた事実を覚えておくことでした。そしてそのシンボルを使って、解決に向かう作業をちょっと大げさに、はっきり見える形で表現してみせるのです。
やり過ぎかと思う表現を、あえて使うことでそれを経験した人の感情がぐんと次のステージに動かされます。一緒に変化に対応する必要がある人が他にもいるのであれば、彼らをそのプロセスに巻き込むのです。
そうした儀式を創造性のあるものにすれば、長い間人の記憶に残り、時間が経っても語り継がれる物語となるのです。語り継がれていくことで、痛みのある問題も徐々に解決し、浄化されていきます。
一時的な行動に頼らず、長続きする思い出に変えていくマジックを生むのがクリエイティブな儀式の効果なのです。困難を乗り越えるために一人でできる儀式もありますが、グループでこうした儀式を通して乗り越えることは組織やコミュニティーにとって大きな価値をもたらします。
困難に直面したときに乗り越える方法として、クリエイティブな儀式をデザインすることを、新しい選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。
第9回に続く(12/27掲載予定です)
大本綾(おおもと・あや)
1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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