支援の側に回る被害者(当事者)は、内斜面と外斜面を行ったり来たりする。どちらの側の事情もわかる一方で、双方の重圧や風にさらされやすい。

 外海には、傍観者や出来事のことを知らない人、関心のない人がいる。

「環状島モデルの内海には、たくさんの人たちが沈んでいます。表面的にPTSDの症状として顕在化してくるのは、内海の波打ち際や内斜面の低い辺りからです」

 そう説明する宮地教授は、この環状島モデルをつくるにあたって「引きこもり」という状態のことを想定したわけではない。

 ただ、筆者は、このモデルが引きこもる人たちの関係性にも見事に合致しているように思えた。

 つまり、外海にいる私たちは、沈黙の内海にいる人たちの声を聴くことはできない。しかし、内斜面に登ってきた当事者たちを通じて、私たちは内海での日々の思いを学ぶことができるし、それらの声を社会へと届けることもできる。

「傷つきたくない」「人に迷惑をかけたくない」
交際相手に1年監禁された40代女性

 同書には、40代女性の瑞穂さん(仮名)の事例が紹介されている。彼女は30代のとき、付き合い始めた男性に監禁され、1年近く、殴る蹴るの暴力や、ナイフを首に突きつけられて性的強要が繰り返されたという。

 瑞穂さんは、現場から何とか逃れて解放されて以降、10年以上、基本的に引きこもって、家にずっといる状態が続いている。

 他人と少しでも身体が触れると震え上がり、電車も人混みが怖い。だから、彼女が外出するのは、どうしても外に出なければいけない用事があるときだけに抑えられてきた。

 また、仕事に就くことができないため、瑞穂さんは自分のことを「ごくつぶし」「生きている価値はない」と言う。しかし、「できる限り迷惑をかけたくない」「家族が悲しむから死ぬわけにもいかない」からと、死ぬことを何とか思い留まっている状況だ。