「奥山に紅葉ふみわけなく鹿の……」は誰の作?

 古今和歌集(*1)からとられた1句が、百人一首の5番目「奥山に紅葉(もみぢ)ふみわけなく鹿の こゑきく時ぞ秋はかなしき」です。秋の色、音、情感のすべてが揃っており、秋を読んだ句として最高、との評価もある名作です。

撮影:三谷宏治@奈良ホテル脇

 ただ、古今和歌集では「詠み人知らず」となっており、誰の句だかはわかっていないのです。ただその後、藤原公任(ふじわらのきんとう)らが「これは伝説の歌人 猿丸大夫(*2)(さるまろのたいふ)のもの!」としたこともあり、百人一首ではそうなっています。これが江戸以降、さるまるだゆう、と読まれるようになりました。

 温帯に属する日本には、明確な四季があり、その中でも色彩豊かなのは秋。そしてその中心は、なんといっても紅葉(黄葉:こうよう)です。百人一首でも桜(*3)の歌5首に対し、紅葉の歌は6首。僅差ですがトップなのです。

 でも不思議です。紅葉ってなぜ起こるのでしょう? ヒトの目を楽しませるため、ではないはずです。

*1 初の勅撰和歌集。平安初期の905年頃成立。全20巻、1111首(定家本)。藤原定家による小倉百人一首の成立は、300年後の13世紀前半。
*2 猿丸は人の名前。大夫は古代では5位より上の大臣・側近への尊称と見られる。
*3 日本で桜が第一の鑑賞樹となったのはソメイヨシノが開発された、江戸末期以降。ソメイヨシノは種では増えず、各地にある樹はすべて接ぎ木などで育てられたもの。