イスラエルは、第2のシリコンバレーにも位置づけられる“Startup Nation”として世界的に有名だ。特に0から1を産みだすイノベーティブなハイテク技術は、IT、バイオ、軍事など幅広い分野で世界的に定評がある。既にIntel、Google、Apple、Samsung、J&J、GE、Siemensなどグローバルトップ企業は、イスラエルに設置した研究開発センターを軸に世界に向けて新事業創造を着々と仕掛けている。対する日本企業は、イスラエルに対する先入観から重い腰がなかなか上がらず、完全に出遅れている。最近になってようやく一部の日本企業に動きが出始めたものの、イスラエルが有する幅広いポテンシャルを活かす余地はまだ十分に残されているのである。
本稿では、日本を大きく追い越す形で近年特にイスラエルと接近している中国の動きとともに、イスラエルと日本とのハイテク領域だけではない幅広い連携の可能性について、イスラエルに現地コンサルタントを数多く有し、実際に日本-イスラエル間のプロジェクトを手掛けるデロイトトーマツコンサルティング藤井氏が紹介する。

中国が着々と接近するイスラエルのイノベーション力

 イスラエルは人口約800万人の小国でありながら、GDPに占める研究開発比率や国民1人当たりの起業率・博士号保有者数・特許数は世界一で、米ナスダック上場件数もイスラエルが外国企業中トップだ。イスラエル政府は、研究開発やスタートアップに対する税制優遇や高水準の資金補助など、様々な形で国をあげたイノベーション促進策を提供している。ノート型PCの普及に不可欠だったIntelの省電力マイクロプロセッサや、病院インフラの整っていない新興国で高度な問診診断を可能にしたGEの小型ポータブル超音波診断装置など世界的なインパクトをもたらすイノベーティブな技術がイスラエルのリードによって産み出されてきたことは有名だ。

 そんなイスラエルの世界最先端の技術力の取り込みを近年急速に進めているのが中国である。中国には未だ「イミテーション国家」の印象が強いが、2006年に胡錦濤前国家主席が「イノベーション型国家」の建設を提唱して以降、情報・バイオ・素材・宇宙・省エネ等の各産業で世界トップレベルの技術力と知的財産権を自国で確保することを国家戦略として掲げ「イミテーション国家」からの脱却を着々と図っていることは見逃せない。

 中国の特許数は過去10年急成長を続けており、特許申請数では既に世界一、特許許可数でも日本、米国に迫る勢いである。イスラエルとの政策連携範囲は材料・化学、光学、バイオ、環境等の広範に渡り、イスラエル政府のイノベーション政策を牽引するチーフサイエンティストオフィスを介して設立された中国企業とイスラエル企業のジョイントベンチャー数は、2013年に遂に国別で世界一になったほどである。