一方で、一定規模の土地を要するプラント建設にあたっては海岸地域の土地コストの高騰や収容、許認可手続き等にかなりの時間を要することから、先進国のみならず新興国でも、陸上の淡水化プラントの建設は課題を抱えている。そこで注目されるのが「洋上淡水化事業」だ(例:海水淡水化船のイメージ図)。
日本には、世界有数の造船技術があるほか、日本固有の技術として石油備蓄基地等で実績がある「メガフロート」も活用可能であるため、洋上水インフラ事業としては発展性が高い。また日本は海事分野における国際ルールや基準作りに高い影響力を有しているため、洋上淡水化設備を海外展開するための“有利な競争環境作り”においても強みを発揮できる可能性がある。
一方でイスラエル側は、既に米国、欧州、中国、インドなど幅広く淡水化プラントを提供した実績と従前のグローバルネットワークを販路開拓のテコにしうる。イスラエルの事業者は日本の事業者の弱みであるインフラのオペレーションまで対応可能であるため、補完関係上の相性も良い。
取り組みはまだ緒についたばかりであるが、今後、“スマートシティ”の新しい水インフラモデルとして、洋上に浮かべる淡水化施設が浸透していく可能性もある。将来的には海水淡水化施設だけでなく下水処理施設や洋上風力・水素発電等のエネルギー施設などとも組み合わせ、都市インフラをまとめてメガフロート上で提供するような新産業に発展させていくことも期待されるのである。
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