比較的のびのびと仕事をすることができたバブル時期までは、放っておいても人材は育っていた。しかし、失敗を許さない顧客、コンプライアンス重視、成果プレッシャーなどにより、職場の空気は徐々に息苦しくなり、人々は縮こまりながら仕事をしているように思える。こうした状況の中で、優れたマネジャーに「なる」、優れたマネジャーを「育てる」ためには、人が成長するメカニズムをしっかりと理解した上で、仕事への取り組み方を再考し、育成支援の仕組みを整備する必要があるだろう。本シリーズでは、筆者が実施した調査結果に基づいて、「マネジャーは仕事を通してどのように成長するのか」、「優れたマネジャーをいかに育てるか」について考えたい。
ブラックボックス化している成長プロセス
まつお・まこと
1988年小樽商科大学商学部卒業。2004年ランカスター大学経営大学院博士課程修了。Ph.D. (in Management Learning)。神戸大学大学院経営学研究科・教授を経て現職。
1988年小樽商科大学商学部卒業。2004年ランカスター大学経営大学院博士課程修了。Ph.D. (in Management Learning)。神戸大学大学院経営学研究科・教授を経て現職。
「人材開発上の課題」について調査すると、常に上位にランクされるのが「管理職の力不足」である。経営層からは「もっと力をつけてほしい」と責められ、部下からは「頼りない」とつきあげられるミドルの立場はつらい。しかし、裏を返せば、こうした非難は、ミドルマネジャーが組織の「要(かなめ)」であり、屋台骨であることを意味している。企業を訪問すると、課長が生き生きとしている会社は元気があるし、課長の目が死んでいる会社は沈滞していることが多い。つまり、会社の成長とマネジャーの成長は「同期」しているのだ。
では、マネジャーが成長するためのカギは何だろうか。それは「経験」である。これまでの研究によれば、マネジャーの成長の7割は経験によって決まると言われている。しかし、実務だけでなく学術の世界においても「挑戦的な仕事を任せれば、管理職は育つ」というようなアバウトな考え方が支配的であり、マネジャーがいかに経験から学んでいるかについてはよくわかっていないのが現状である。