「目標共有力」とは、単にビジョンや目標を示すだけでなく、それを部門内に浸透させ、メンバーを巻き込む力である。ある生産部門のマネジャーは「自分なりのロジックで「ありたい姿」を作り、周囲の意見も取り入れながら、組織で合意した姿に皆の方向を向けさせることができた」と振り返っている。これは目標共有力を獲得した例である。

 3つめの力である「事業実行力」は、ビジネスチャンスを見極めて事業化し、新しい価値を実現する能力である。例えば、「頭ではわかっているものの実行に移すアイデアがない中で、他者の特許網をかいくぐって製品を開発し、市場展開案を実行することができた」「社外パートナーと連携して、「発注者→受注者→施工業者→商社」まで一連の流れをトータルでフォローするしくみを作った」といった報告は、事業実行力を高めた事例である。

 以上をまとめると、マネジメントとは「情報分析力」によって現状を把握し、「目標共有力」で目標を浸透させ、「事業実行力」で価値を生み出していく活動から成るといえる。優れたマネジャーは、これら3つの力において秀でているのだ。

 12社のデータを、「担当者、課長、部長」の各ステージで測定したところ、どの時代においても「事業実行力」のスコアが低いことがわかった。やるべきことはわかっているが、それを実行することができない。そのような事業実行力の弱さが、日本企業のミドルマネジャーのネックになっているといえよう。

「経験」と「能力」のつながり

 これまでの分析において、マネジャーは「連携」「変革」「育成」の経験を積むことで、「情報分析」「目標共有」「事業実行」の力を身につけていることがわかった。では、これら3つの経験と3つの能力はどのように関連しているのだろうか。調査データを分析したところ、下図に示すような3つの強いつながりが見いだされた。

優れたマネジャーになる・育てる(第1回)<br />「連携」「変革」「育成」の経験が人を伸ばす<br />――北海道大学大学院教授 松尾 睦